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I'm Not The Only One :: 2015/03/15(Sun)

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誰かの " 特別 " でありたいと願って、誰かに必要とされることで自分の価値を見出して、それでようやく生きていてもいいんだと納得したつもりになっていた時の自分を、否定するつもりも肯定するつもりもない。



ただ、生きていくことが誰かのためではなくて、自分のためなんだと、今ならわかるよ。
自分が幸せなら、それでいいじゃないか。
いまが幸せなら、それでいい。





13:40。
BGMは、Sam Smithで『I'm Not The Only One』





この気持ちが何なのか、どういうふうに扱ったらいいのかわからないまま、夏がきて、タンクトップから覗く細くて、けれど適度に筋肉のついた腕から目をそらしながら、秋がきて、徐々に色濃くなっていく夕暮れのせつなさや夜の乾いたにおいを感じながら、恋でもない愛でもないそれを知らんぷりし続けるのは、もう限界だとわかっていた。



俺がユウキの家に厄介になってから、彼に対する気持ちを整理できないまま時間だけが流れた。
夏から秋へとゆるやかに移り変わっていくのを肌で感じながら、俺はこのまま、どうにかやり過ごせないだろうかと期待していたのだ。
この、説明のできない(あるいは、説明したくない)感情が、いっときの高熱のように、やがて冷めて平常にもどっていくのを。



新しい家がみつかって、母親と、妹の三人で、そこに移り住んでからも、俺はときどきユウキの家に泊まりにいっては、隣で眠った。
ユウキからは、あいかわらずベビーパウダーみたいなにおいがする。
眠るときはきまって口をだらしなく半開きにして、そこから漏れるかすかな寝息に耳をすませながら、俺は自分が変質者になったような気分を味わった。
しずかに上下する胸、無防備にときどき発せられる寝言、寝返りをうったときにかすかに香るベビーパウダーのにおい。



一度だけ、眠っているユウキにキスしたことがある。
半開きになったままの唇は乾燥して色味をなくし、ぼやけた肌色で、男の子の唇らしくてすこしだけセクシーだとおもう。
そっと、でも起きない程度にしっかりと、自分の唇をおしあてる。
やわらかくて、あたたかくて、何の反応もしめさないユウキはまるで死人みたいにさっきと変わらない態勢のままぐっすり寝息をたてていた。
誰も知らない。誰も気づかない。
俺だけしか知らないキスは、俺をひどく孤独な気分にさせる。
目の前にいるのに、何の反応もかえしてくれないのなら、ひとりきりと同じだ。



キスしたとき、ベビーパウダーのにおいが鼻の奥にツンとつきぬけた。
それが余計俺をひとりにさせる。
それ以上触れることなんてできないし、触れたところで、この気持ちを説明することなんてできない。



うしなうよりは、隠しとおしたほうがずっと良いと、俺は本気でおもっていた。





ユウキのことを一言で説明するなら、「ちゃらんぽらん」だ。
物事を軽んじている節がままあるし、とんちんかんなことを言ったり、場の雰囲気とはまるでちがうテンションで、急にべつの話題に移ったりするので、ある意味でとてもせわしなく、そして自由だった。
俺はその自由さが好きだった。
ユウキはいつだって自分の独特なペースで行動したし、彼の偏狭で見通しのわるい価値観は中学生だった俺には、それでもただひとつの窓口だった。
世界との、窓口。
俺が唯一、やすらぐことのできて、気の置けない間柄で話すことができる、ただひとりの友だち。
友だち、と、まだ呼べるような気持ちだったなら。



だって、友だちにあんなひどい気持ちでキスなんてしない。





たとえばユウキに、ほかの誰かに接するように、やさしく気さくで、分け隔てない純粋無垢な感情をむけられると、俺はほとんど困惑してしまう。
うれしくないはずがない。
友だち以上の感情をもっている俺が、すこしでもユウキのそういう生ぬるいやさしさに触れていたいのは当然のことだとおもうし、すこしでも側にいられるのなら、そういう無差別なやさしさも受け容れるべきだ。



じっさいユウキはほとんど誰にでもやさしかった。
無頓着な相手にも必要以上に気さくで、人見知りとは無縁だった彼がどんどん新しい人脈を開拓していくのを、俺は黙ってみていることしかできない。
それは、ほんとうなら取るに足らない出来事のはずだ。
友だちが増えるのはいいことだし、誰とでも分け隔てなく交流できるのはすてきなことだとおもう。



けれど、と、俺はおもう。
けれど、他のひとに向けるようなやさしさを、俺に向けないでほしい。
俺には見せない顔を、他のひとに見せないでほしい。
彼女がいてもいい。
篠田さんが好きで、ユウキは生粋のノンケだと知っているから、だから女の子とつきあっていても構わない。
ぜんぜん問題ない。
ただ、他の男友達に、俺の知らない顔を見せないでほしい。
俺には向けないやさしさを向けないでほしい。
俺と居るときよりも、楽しそうにしないでほしい。



俺と居るときよりも、笑わないでほしい。



心の端っこで沸き上がる感情をおさえることができなかった。
俺は、完全に嫉妬していた。
自分以外の、誰か、べつの友だちと楽しそうにしているユウキを見るのが辛くなっていくことが、辛かったのだ。
女の子にとられるのはいい。
だけど、男友達にとられるのは、嫌だ。
自分がユウキのいちばんで、特別なのだと信じたかった。
けっして交わることのない気持ちでも、他のどの男友達のなかで、俺がいちばんであると思いたかったのだ。



ユウキがときどき、俺の知らないところで別の友だちと遊んでいるのを知っては、ばかみたいに打ちのめされた。
ほとんど泣き出しそうになったし、こみあがる拒否反応に吐き気すらおぼえた。
そのたびに俺は、自分を鼓舞して、どうにか正気をうしなわないよう努めた。
感情的になることに意味はないからだ。



もうすっかり秋で、ユウキの家がある住宅街は俺をうら寂しい気持ちにさせる。
のどかというより辺鄙な風情だった。
ときどき、ユウキとふたりで隠れて煙草を喫いに外に出ては、中身のない話をえんえんくりかえした日々を思った。
なつかしくて、ひどく平穏で、満ち足りた日々を思った。
誰かといっしょじゃないと、心地よいなつかしさは生まれないと思う。
ひとりぼっちで思い出すのは、孤独だった自分だけだ。
俺は孤独だったし、今またその孤独と対峙している。
自分ではどうしようもない、救われない気持ちを抱えて、ひとりぼっちでぼうぜんと立ち尽くしている状況を、誰かに説明して慰めてもらうこともできない。



そういうとき、俺は苛立ちばかり募った。
ユウキと一緒にいても、ほかの誰かが訪ねてくれば、彼はそっちのほうに気を取られてしまう。
それは俺にはちっともおもしろくないことで、ひとりで煙草を喫いに抜け出したりした。
秋空がきれいにひろがって、すみずみまで透き通っている。
いまこの瞬間、この煙といっしょに、このどうすることもできない感情が消えてしまえばいいのに、と、考えた。





知っている。
俺はきみにとって特別な存在じゃない。





最初から知っていたのだ。
特別なんかじゃない。
だって、俺は、ただの友だちだから。
どんなに頑張ったって、手も握れない。
眠っているときに軽くキスするみたいな卑怯な真似しかできない。
俺は無口で、気の利いた冗談もじょうずに言えなくて、誰かをたのしませることも得意じゃない。
ほかの男友達と居たほうが、ユウキにとっておもしろいことなんて、わかっているのに。
俺がいっしょに居たって、俺自身が苦しいだけだって、わかっているのに。



ひとりで煙草を喫いながら、俺はほとんど泣き出しそうだった。
ユウキは、きっと家で男友達と楽しくやっている。
俺とはちがって、おもしろくて、冗談が言えて、気の置けない間柄で相槌をうつことができる友だちだ。
俺は、もうそれすらできない。
それすらできないなら、一緒にいないほうがいいんじゃないか。



ゆっくり煙を吐き出しながら、俺は目に入ったそれが沁みて涙が溢れてくることを願った。
泣いたら、すこしは楽になれるんじゃないかと思った。
でも、それは届かない。
煙はゆらゆら空中を漂い、いつのまにか消えてなくなる。
たとえばこの感情に、恋とか愛とか名前をつけて、決めつけてしまえたら、叶わないものとして葬り去ることもできたかもしれない。
俺には、でもそれはできなかった。
臆病者で卑怯者の俺には、男が好きな自分を認められるほど、強くはなかったのだ。



「しょご?」
気がつくと、隣にユウキが立っていた。
俺はほとんど狼狽して、口を不自然にぱくぱくさせてしまう。
ひとりで立っている彼は、不思議そうな顔で俺をみながら、
「どこにいるのかと思った」
と、言った。
横に座って、セヴンスターに火を点ける。
「ケンジたちも心配してたぞ。なんかしょごの様子おかしかったくね?って」
ユウキはそう言いながら唇をまるくすぼめて、煙をはきだした。
輪っかになったそれは、唇からはなれてすぐにひろがって、やがて崩れ去る。
「そっか。別になんでもないよ」
俺はぶっちょうづらで言った。
ソッカ。ベツニナンデモナイヨ。



「今日、泊まってく?」
ユウキが言って、俺は彼の無自覚なやさしさを呪った。
こいつはいつだってそうだ。
誰にでもやさしいし、誰にでも同じ温度で接する。
しずかに笑いながら、俺は首を横にふった。
おどろいたことに、そのやさしさを俺は待っていたのだと気づいた。
触れただけで、すこしだけ、救われたような気にさせてくれるそれを、俺は転落していくみたいな気持ちで欲しがっていると。



隣に居たいとおもった。
どうしようもなく途方もない心持ちで、それでもこいつの側に居たいとおもった。
それが自分にとって、かえがたい幸せなのだと。
うら寂しい住宅街の片隅で、いつまでも縮まらない距離を確かめることしかできなかったとしても。




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眠れる者たち :: 2015/02/28(Sat)

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生きていて、なるべくなら知りたくないことや見たくないことを、運悪くたまたま見聞きしてしまうことが時々あって、そういうときの後悔や気おくれを経て、ひとが成長していくのなら、それでもいいと俺はおもう。
ひとは、所詮ひとなんだから。
俺も、あなたも、ただのひとでしかない。
俺たちは神様じゃないし、聖人君子でもない。





14:31。
BGMは、Justin Timberlakeで『FutureSex/LoveSounds』





俺はずっと二人組だと思っていた。
母は放任主義者で、夜は仕事にいって帰りはいつも深夜だったけれど、俺のただひとりの片割れはあの女で、母の機嫌をそこねないよう、注意深くやっていたつもりだ。



仕事に行く前、風呂上がりの化粧気のない母は鏡台にすわって、いろいろなクリームを顔じゅうに塗りこんでいく。
ファンデーションを肌に綺麗にのばしながら、その女の顔はまるで他人のそれのような気がした。
マスカラを上目遣いに塗って、真っ赤な口紅をさす。
仕上げにBVLGARIやらCK oneやらをふりかけて、Louis Vuittonのトートバッグを持って颯爽と出ていく目の前の女は、俺の母親じゃないみたいに思えた。



「いい子にしてるのよ」
母はそう言って、仕事に出ていく。
俺を置いて、たったふたりきりの家には、子どもには途方もない長い時間と静寂がふりつもる。
4才のころから、7才のころまでそんな生活をしていた。
父親がいないことを疑問におもって母を困らせたりもしたけれど、俺にとって母親以外のおとなは未知だった。
未知であり、敵であり、他人だった。
もちろん、ほんとうの父親も含めて。





父と母が別れたのは、俺が生まれるまえだ。
子どもができたと伝えると、父親に " なるはずだった " その男は、「最初はやさしかったけれど、ある時から急に態度をひるがえして、俺の子じゃないって言い始めた」らしい。
彼と、彼の両親、そして母の三人での話し合いの場が設けられ、そこで交渉はかんぜんに決裂した。
慰謝料も養育費もなしでやっていくと決めた母が、夜の仕事で生計をたてるのはありきたりすぎて俗っぽいけれど、それでもそれ以外方法がなかったのだ。
大した学歴もないうえに身重の女が仕事を得るには、選り好みしている余裕はなかった。



若い頃、血の気の多かった母はすぐに声を荒げては父と喧嘩していたらしい。
父親になるはずだったその男は、気がひどく弱くて、つねに逃げ腰だったらしいから、そんな母と一生を添い遂げるのがこわくなったのかもしれない。



父は、母親と共通の友人だったひとに、
「あいつがこわい」
と、こっそり言っていたらしい。
それを聞いたとき、俺は心から母に同情したし、父にもおなじくらい同情した。
じっさい若い頃の母はひどく気性が荒くて、俺を叱るときはよく手をあげたし、時には足もでたので、そういうところに嫌気がさしたのかもしれない。



ともかく、そんなふうにしてシングルマザーになった母と俺は、つねに一緒で、まさに二人組だったとおもう。
六才で二段ベッドを買ってもらうまでは一緒に寝ていたし、仕事で上り詰めるところまで上り詰めた母親に、買えないものなんてなかったのだ。
俺はたぶん、他の子どもたちよりはたくさんのものを買ってもらった気がする。
おもちゃだったり、漫画だったり、プラモデルだったり、二段ベッドだったり。
二段ベッドからみえる景色は、ワンルームの部屋のほぼ全貌で、奥のキッチンに冷蔵庫、その横にある玄関につながる廊下までぜんぶみえる。
そこからの視点は、まるで神様のそれのようで、俺はそこで眠るのがすきだった。
寝ながらベッドの柵越しにみることができる下界を、ほとんど超越したような気になって。



深夜まで、家の中でひとりで遊んでいたのを憶えている。
ゴジラやガメラや、ウルトラマンなんかの人形でおもいっきり散らかして、ひとり頭の中で架空の街を破壊していく遊び。
ビデオテープのケースなんかを街に見立てて、それをゴジラが破壊していく。
それを夜中の一時過ぎまでやって、母が帰ってくると、怒られたくない俺はよく片付けるフリをしていた。



「いま片付けてるとこ」
そう言って、さっきまで破壊していた街を元の場所に " 片付ける " 。
そうして自分が、母がきちんと帰ってくることに少なからず安心しているのを感じて、そこでようやく眠気が訪れる毎日だった。





俺が見たくなかったのは、母が怒って手をあげる姿でもないし、母が化粧をして仕事にいってしまうことでもない。
見たくないもの、見なければよかったものが、この世にあるなんて、知らなかった。



俺は無知で、ひとりでお留守番をしていることしかできない。
一度、棚の奥にしまってあった海外映画のビデオを、勝手に観てしまったことがあった。
コメディタッチの映画で、ときどき突拍子もないセックスシーンが挿入される、ありきたりなアメリカ映画。
俺は " それ " に釘付けになった。
これは何で、どういう意味なんだろう。
母親が仕事のとき、しばらくそのビデオを観ていた。
子どもでも、なんとなくそれが「見てはいけないもの」だとわかっていたから、すっかりその罪悪感と背徳感の虜になった俺は、母がそういうビデオをもっていたのが意外だったのだ。



おとなは皆、こんなことをしているのだろうか。
そんなことを考えながら、わけのわからない " それ " を盗み観るのが日課になった。
ある日、そのビデオを観ながらつい寝てしまって、ビデオの声とはあきらかに違う、はっきりした(そしてとても怒った)日本語が聞こえて目を覚ますと、母が仕事から帰ってきたところだった。
運悪く、部屋は街の破壊のために散らかされており、おまけにそのビデオときたもんだから、母はカンカンだった。



「こんなに散らかして!」
と母は言い、化粧のはげかけた顔で、
「これは子どもが観るもんじゃない!!」
とさらに語気を強めて言った。
ビデオの隠し場所は、それから変わったらしく、俺は二度とそれを見つけることができなかった。
タイトルやストーリーすら思い出せないそれを、時々画面だけ思いだすときがあって、ばかみたいな懐かしさを感じてしまう。





その日、俺は珍しく二段ベッドの上の段で寝ていて、母が帰ってきたことにも気づかなかった。
いつも通り深夜なのだろうその日は、一度寝たら朝まで起きない俺が、どうしてなのかわからないけれど、急に起きてしまったのだ。



うすぼんやりした意識でも、母の気配があるのはわかった。
部屋の中に、母のつかっている香水のにおいがいつもより色濃く漂っているからだ。
でも姿はみえない。
お風呂に入っている様子もないし、物音もしなかった。
二段ベッドに横になりながら見下ろせる景色は、せいぜいテレビの画面がかろうじてみえるくらいで高が知れている。
キッチンテーブルのほうに目をやると、母がいつも使っていたLouis Vuittonのバッグが置かれているのがみえて、帰ってきていることは間違いなかった。
その横に、見覚えのないコートもかかっている。
あきらかに女物とちがうそれは、まるで夜そのものみたいにのっぺりと黒く、そこに所在なげに佇んでいるようにみえた。
ほとんど恥じ入っているように。



床から何かこすれるような音がしたのはその時で、だから俺は、母が床で寝ているのだろうか、と思ったのだ。
疲れてそのまま寝てしまうことは、それまでもたまにならあったし、今日がたまたまその日だったとしてもおかしくはない。
俺は眠気で目をしばたたかせながら、半身だけ起こして下を見やった。



あのとき飛び込んできた光景が、夢なのか現実なのか、いまでもときどき疑ってしまう。
母は寝てはいなかった。
正確にいうと、 " 寝てはいなかったけれど、寝そべっていた " 。
化粧のはげかけた顔で、見たことのない男と寝そべって、キスをしていた。
母とその見たことのない男は、それぞれ向き合うようにして寝そべり、お互いの頬に手をやって、しずかにキスしている。
俺はおもわず、起こしかけた半身をそのままもう一度ふとんに横たわらせ、今そこで行われていた行為を必死に反芻した。
それは、ほとんど厳かなものに見えた。
荘厳といってもいい。
音もたてないで、母とその男は夢中でお互いの唇を重ねて、俺が起きたことに気づいていないらしい。
ふたりきりの世界で、まるで俺なんて居ないみたいに、彼らは見事なまでに二人組だった。



俺が一度もみたことのない母の姿で、あの安っぽいアメリカ映画みたいに、うっとりした、恍惚とした表情で、お互いのからだに腕をまわしていた。
今度は俺が恥じ入る番だった。
胸がどきどきして、いま見たものは何だったのか、これは夢で、じっさいにはさっきの光景は夢のなかでの出来事なんじゃないかといぶかしんだ。



それでも、もう、二度とそちらを見ることはできなかった。
はじめて見る母親のその表情は、厳かではあっても俺にはほとんど恐怖だった。
息をころして、からだを動かさないように、かたく目をとじる。
眠らなきゃ、と、おもった。
はやく眠って、今をやり過ごさなければ、と。



下の音は聞こえない。
俺はしずかに毛布を頭までかぶって、耐えるように眠った。





「母親である前に私は女なのだ」、という言葉が理解できない。



母親であるのと同時に、女でもあるのだ。



じぶんが生まれる前からその女にはその女の人生があって、たぶんそれは、全ての子どもにとって奇妙なことだとおもう。
じぶんの知らない顔と、一生知らなくていい過去。
知りたくない行為と、知りたくない声。
じぶんより以前の、その女の礎。





次の日、母はいつも通りだった。
目を覚ましたら、あの男の姿はどこにもなかったし、母もいつもみたいにすっぴんでテレビを観ていた。
すこし疲れたような、けれどそれでいてけっして不健康そうではない顔。



「おはよう」
そう言った母の声は、俺のよく知っているそれだった。
昨日みたことは何だったんだろう、と、俺は自分の記憶をほとんど疑ってしまう。
ぜんぶ夢だったんじゃないかと思って、夢だったらいいな、と思った。



あのアメリカ映画を思って、きのうの母を思った。
知らなければよかったことが、生きていると否応なく増えていくのだと、あの頃はまだわからなかった。
でも、知っていくことで、成長できることもある。
知らなければわからなかったことや見えなかったものが、理解できるようになるのだとしたら、きっと、目を向けたほうがいい。
たとえそれが怖くても、気後れしたとしても、後悔したとしても。
" はじめて " って、そんなものだと思うよ。





母が妊娠したのは、それからしばらく経ってからのことだ。






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光と、影と、 :: 2015/02/23(Mon)

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光り輝いているひとがきらいで、自信に溢れているひとがきらいで、愛されているひとがきらいで、格好いいひとがきらいで、屈託のないひとがきらいで、楽しそうなひとがきらいで、やさしいひとがきらいで、そういうひとたちがだいきらいだったのと同時に、憧れてもいた。



そういう存在になりたいと心から願って、けれどそういう役回りは一生まわってこないだろうとどこかでわかっていた。
光り輝いて生きられるひとは、ほんの一握りだ。
選ばれたひとたちの、選ばれた、永遠につづく遊戯のように、それはすぐそこで繰り広げられているのに触れることはできない。
まるでうすい膜がはってあるみたいに、触れたそばから柔い弾力で跳ね返されてしまう。





13:55。
BGMは、Loreenで『My Heart Is Refusing Me』





疎外感、と、俺はそう呼ぶことにした。
それはやがて、 " 劣等感 " という醜くてあちこち尖った厚い殻にかたちを変えて、そこに篭ってしまった自分自身を、外の世界のなにもかもから幽閉してしまう。
" 被害妄想 " と、ひとが見たらそう言うだろうか。





俺が傷ついていたのは、自分が光り輝くような存在じゃないことでも、機転をきかせて周りをあかるくさせることができないからでも、人生を楽しめずに厚い殻に閉じこもっているからでもなかった。



俺がなにより傷ついていたのは、あのひとに対する恋心のせいだ。
それは自分たちを苦しめ、淡い光で彼を照らすようなこともなく、しあわせは電話を切ったそばから不安に侵食されてしまうように、恋がもたらすはずのいくつかの清廉や純粋をことごとく無にした。



春の終わり、桜はとうに散って、夏の前のような強い陽射しばかりが視界をくもらせる。
強すぎる陽射しは、ときおり暴力的なまでに目の前の風景を暗くするとおもう。
目を細めてしまって、みえるはずのものも、ぼんやりと輪郭をうしなう。
そんな時期に、俺たちは出会った。
もう風はなまぬるくて、太陽の光で影ばかりが強調されて、つい日陰ばかりを歩きたくなるような、そんな日、彼と出会ったのだ。





彼とは彼のブログを通じて知り合った。
少しずつ深まっていく彼への好意を、俺は気づかない素振りで、けれどどこかではやく気づきたくてうずうずしていた。
だから、彼に「好きなんだけど」と伝えたあと、はじめて同性にそんなことを言ったのに、ちっとも後悔はなかった。
彼は俺の気持ちをうけいれてくれた。
このひとはなんて尊いひとなんだろう、と思った。
きっとこのひとは傷ついていてもそれを隠して笑っているような、そんな尊さを感じた。



彼との恋愛はもうほとんど瀕死に近かったと思う。
お互い顔は写メ、声は電話、考えはブログとメールでしか知らないのに、このひとしか居ない、と、強く心に思わせる何かがあった。
毎日連絡をとりあって、ときどき彼の元カレが原因で連絡を絶たれたり、彼自身の抱えていた問題が深刻になっていくにつれて、もともと安定していなかった足場はさらにぐらついた。
じっさいには会ったこともない、ほんとうにそんなひとが実在するかもわからないのに、俺はその遠くはなれた尊い男のことが好きで好きでたまらなかった。
骨抜きにされた、といってもいい。
正常な判断能力をうしなって、彼がみていた景色やこぼれおちた痛みを拾い集めようと躍起になったりした。



こんなに苦しいのに、彼はまぶしい。
そのまぶしさのせいで俺は、目を細めざるをえない。
視界から輪郭がなくなり、影ばかりがちらつくような世界で、俺は彼と永遠に転落しつづけているような気がした。





ある日、バイトが終わって時間があいた俺は、すぐ近くにあったちいさい商業施設に入った。
アートセンター、と名のついたそこは、文字通り定期的に開催される展覧会や全国巡回でまわってくるイベントごとを催すような会場で、美術館よりはいくぶんライトで、家族づれでも入りやすいというのが売りだった。



その時そこで開催されていたのは、名前は忘れてしまったけれど「自然」をテーマにした内容で、さまざまな作品が各ブースに用意されていて、学芸員よろしく作品の解説者がそれぞれの持ち場で訪れる客たちの相手をしている。



シアタールームの奇妙な映像、子どもが描いたんじゃないかと思うような個性的な森林、妙に生々しくリアルに描かれたカブトムシやらクワガタの点描画、一般参加型のフリースペース。
いろいろなブースをまわりながら、俺は連絡のなかなか取れない彼のことを思った。
彼はいま、何をしているんだろう。
元カレとセックスでもしているんだろうか。
なぜ、彼のことになるとこうも度をうしなうのか。
どうして、彼はあんなにもまぶしい存在なのか。
ただわかるのは、彼のことが大好きで、他のことはどうでもいいということだった。





ひとつのブースに入る。
中は真っ暗で、真ん中になにやら妙な円形のテントのようなものがあった。
そこだけが中からかすかに光りを放っていて、他にもひとが居るようだった。



近づいてみると、解説者の女の人が先客らしい中年の夫婦に作品の説明をしていて、俺が目に留まると、
「こんにちはぁ!どうぞ、ご一緒にご覧ください」
と、元気よく言った。
そこは、草や花がたくさん植えられていて、まるで小さなガーデニングのように思われた。
名前も知らない花と草が、かすかな光りに照らされてうすぼんやりと見えた。
そこで再び説明がつづけられる。



「こちらの作品は、生きた草花をそのまま植えていまして、これだけだとただのガーデニングかと思われるかもしれませんが、実はこのブースにはある仕掛けがあるんです」
解説者の女の人はスムーズにそう言うと、つづけて何かのスイッチを目立たせるように手に持って俺たちの前にかざしてみせた。
「これは特殊なスイッチになっていまして、これを点けると普段は絶対にみることのできない " あるもの " が見られるようになるんです」
口元にわずかに微笑みをつくって言い、女の人は、それではいきますねー、とあいかわらず愛想よくつづける。



スイッチを点けた瞬間、それが何なのか、いったいどんな意味があるのか、よくわからなかった。
なにか映像が映し出されるでもなく、電気がついてあかるくなるでもなく、あらわれたのは、黒いテントがはられたブース一面に無数の光りの粒が飛び交っている映像なのか、現象なのかはわからないけれど、ともかく " それ " が勢いよく動きまわっていた。
おおよそ数え切れないほどの光りの粒子は、ぴょんぴょん跳ねるように動くものもあれば、まるでUFOのように瞬時に移動してしまったんじゃないかと思うくらい速い速度で飛び交うものもある。



きれい、と中年夫婦の妻が言い、すごいな、と夫があいづちをうつ。
さっきまでよく顔のわからなかった彼らの表情が、慣れてきた目にすこしだけわかった。
解説者の女の人はまんぞくげにそれを見つめ、説明のつづきを聞かせてくれた。



「いま映し出されているこの光りの粒は、映像などではありません。さっきのスイッチを点けて、特殊なライトをこの植物たちに当てているんですけれど、じつはこの植物たちが、今まさにこの光りの粒を出しているんです」
女の人の説明に、中年夫婦は、ほお、と一声をあげる。
「光子、といいまして、英語だとフォトンというんですけれど、これは生きているものなら何でも出しているものなんです。目には見えませんが、生物は生きているあいだずっと、この光りの粒、光子ですね、これを放ちつづけているんです。もちろん、人間もそうです。特にスポーツをしたあとは、光子の放たれる量が多くなるといわれています」
すごいわねぇ、と中年夫婦の妻が言い、夫がまたひとつ、ほお、と言った。



「生きているあいだはずっと、この光りの粒は出続けています。死んでしまったら、それもなくなりますけれど」
女の人の説明がおわり、スイッチが消される。
光りの粒子は、ひとつ残らず消えてしまった。
残ったのは、さっきと同じ、小さなガーデニングだけだ。
それでは、お出口はあちらになります、ご静聴ありがとうございました、と解説者の女の人が言い、それを合図にしてつぎの客が入ってくる。





俺は、いま見たものはほんとうだろうかと思った。
生きているものは、生きているあいだずっと、ああして光りの粒を放ちつづけているって?
植物だけじゃなく、人間も、なにかさっきのような特殊なスイッチで照らせば、あの光りの粒のようなものがいっぱい飛び交っているのが、見えるのだろうか。



俺も、彼も、あんなふうに綺麗な光りを出して、あんなふうに小刻みに動きまわりながら、生きているのかな。
あんなふうに必死に、消えてしまいそうなくらい小さな光りの粒を、消えないようにいっぱい出して、生きているのかな。



俺は自分が、光り輝く存在とは無縁であるとおもっていた。
いつも影で、光りが当たっても目を細めて見ないふりをしてしまう、と。
だから彼のような、光りに溢れたひとに出会うと、俺は自分にないものばかり数えて、自分にあるものを数えたことなんて一度もなかった。
あるはずがない、と、おもっていたから。
そんなものが俺なんかにあるはずがない、と。



でも、きっと自分じゃわからない。
きっとそうだ。
彼は自分のことをよく卑下してみせる。
出来損ないで居ても居なくてもいい、どうでもいい存在なんだと言ったりする。
その都度、俺は彼に言うのだ。
おまえはどうでもいい存在なんかじゃない。
現にこうして俺には必要な存在なんだし、居てもらわないと困る、と。



彼にとって、俺は光り輝く存在にみえるだろうか。
自分にないものを持って、しあわせに生きているようにみえるだろうか。
自分じゃわからない。
でも、もし本当にそうだったら、嬉しい。
そうじゃなくても、俺たちみんな、光り輝いている。





光り輝く存在になるのは難しい。
俺は自分がどんなにそれとかけ離れた存在であるか知っているから。
光りに手を伸ばして、届かないとわかっているのに諦めきれずに指先をぴんと張って、すこしでも届けばいいと願いつづけて、でもこうして必死に生きている。
そんな自分のことを、よく知っているから。






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フケンゼンセイテキコウイ :: 2015/02/10(Tue)

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" 不純異性交遊 " をしないための授業です、と、保健体育の女の先生がけわしい顔で言い、付け加えるみたいに、今は " 不健全性的行為 " とも言います、と言った。
なぜかというと、相手が異性だとは限らないからです、と、あいもかわらずけわしい顔のまま、しかしどこか面白いことを言うみたいな顔でそう説明した。
口元が、やや緩まっていて、まるでばかにしているような感じ。



不健全性的行為か、と俺は思い、エッチすることに健全な瞬間なんてあるのだろうか、と、疑問というか仮説を頭の中でうちたてる。
欲望なんてだいたい不健全なものだ。
それでもそれを適当に満たして、やり過ごしていくしかない。
同意と避妊さえあれば、問題ないと思うけれど、こどもは同意じゃなくて " ノリ " だし、避妊よりも " 好奇心 " だろうことも分かるので、こういう授業をするのもしょうがないことなんだろう、と、冷めたコーヒーみたいにひややかな強い苦味が、交感神経のすみずみまでゆきわたるように、保健体育の女の話を聞いた。



平成十六年で、俺は十四歳だった。
オナニーは毎日していた。





14:16。
BGMは、細野晴臣で『Cow Cow Boogie』





信じられないだろうけれど、俺はあのころ、童貞だったくせに女の子のおっぱいを触ったことがある。
正確にいうと、おっぱいを揉んだことが、ある。



夏で、俺たちはケンスケというA組の男子の家にいた。
夜で、蒸し暑い日だった。
ケンスケと俺の他に、ユウキと、C組のナオコ、そしてB組のニッタがいた。
ニッタは下の名前を " 愛梨 " といって、かわいらしい名前と対照的に、細すぎる目は笑うと粘土に切りこみが二本入っているんじゃないかと思うほど無くなるし、鼻が低くて唇のうすい、おとなになったら「幸の薄そうな顔」といわれるだろう要素をまんべんなくもった女で、地黒であろう肌は年中健康的な小麦色で、お世辞にもかわいいとは言えない。



ニッタは快活でよく笑った。
笑うと、間寛平に似ている。



その日もニッタは終始ご機嫌で、たいくつな田舎で暇を持て余していた俺たちは、ケンスケの家で「王様ゲーム」をすることになった。
田舎の中学生のくせに、いっぱしのおとなみたいに皆が煙草を喫い、(どこで万引きしてきたのか知らないけれど)ビールやら缶チューハイやらがごろごろ並んで、思い思いの酒をのみながら、気分が高揚していくのをとても抑えられない。
俺はビールと梅酒をのみながら、そこがまるで楽園なんじゃないかと感じた。
友だちとこうして " 悪い事 " をして、ばかみたいな酔っ払い風情で世の中を舐めくさったみたいにどんちゃん騒ぎをする自分たちを、ひどく満ちたりた気持ちでながめているような気がした。



「は~い王様ゲームやるぜ~!!」
ケンスケが言って、どこから出してきたのだろう割り箸にアルファベットを下手くそな字で書いていく。
「ウチ、王様がいい~!」
ニッタがじたばた騒ぎながら言い、酒のせいで紅潮したほっぺたが気の毒になるくらい真っ黒くみえた。



ウチ王様~ウチ王様~と騒ぐニッタを爆笑しながら、女ってみんな一人称が「ウチ」だよな、と思って、それがなんとなくおもしろくてまた笑った。
最初に王様になったのはユウキで、ケンスケとナオコがぎこちなくキスをし、次の王様はナオコで、今度は俺とケンスケがキスをする羽目になった。
ただのキスじゃなく、ディープキスを。
ケンスケはわかりやすいくらい嫌がり、直前までぎゃあぎゃあ騒ぐので、うるさかった。
俺だってお前なんかとキスしたくないよ、と思いながら、さっさと済ませようと促す。
渋々とケンスケが俺に近づき、唇が触れるか触れないかの微妙な位置で舌をちろちろ出した。
俺もそれに応えて、舌の先でちょろちょろっと、ケンスケの舌を舐める。
すぐに離れて、ケンスケが爆笑した。
くっきり二重で顔がちいさいのに、なんとなく全体的なパーツが大雑把なケンスケは、女好きのくせにまだ童貞だ。



次の王様がケンスケで、彼が命令したのは、「BがCのおっぱいを揉む」だった。
Bが俺で、Cがニッタだったので、周りはにわかに色めきたつ。
ニッタも、やぁだぁ~! と大袈裟に言いながら、ちっとも拒否していないふうに高らかに笑ってビールを口に運ぶ。
別にニッタのことは好きでもなんでもなかったけれど、女の子のおっぱいを、一応は公然と触ることのできる機会に、俺はすくなからず動揺したし、何に対するものなのかはわからなかったが、期待した。



ヒューッ!ヒューッ!とケンスケやユウキが喚くなか、俺はニッタに「行くぞ」と声をかける。
ニッタは近くにあったベッドに寝転がりながら、「ど~ぞぉ~」と、間の抜けた声でこたえた。
ニッタのTシャツの中に、おそるおそる手を入れた。
しまむらとかで買ったんであろうペラペラのTシャツが手の甲をすべっていく感触が生々しくて、どきどきする。
ニッタはすっかり酔っ払っていて、あー、とか、うー、とか、何だかわからない声をあげながらされるがままだった。
ブラジャーに指が当たって、そこなのだとわかった。
ケンスケやユウキが何やら言っているけれど、全然聞こえない。
俺は手のひら全体じゃなく、五本の指の第三関節あたりだけでニッタのおっぱいを掴み、二、三回揉んだ。
すこし荒々しい感じで、力をこめて。



あ~ん、とニッタが笑いながら言って、周りも爆笑した。
俺もこらえきれずに爆笑してしまう。
初めて触ったおっぱいが、王様ゲームでのそれだなんて、ひどくシュールでばかばかしいことに思われた。
実際いま考えても、ばかばかしいことだと思う。
王様ゲームで憶えていることは、この時と、この後のユウキとナオコのキスくらいだ。
また王様になったケンスケが「AとDは30秒間ディープ!!」と宣告し、それの該当者が彼らだったのだ。
ユウキの舌がナオコのそれと絡まり合うのを見ながら、篠田さんが知ったらどうなるだろう、と、俺は意地悪なきもちで考えた。



ユウキは目を閉じて、暑いのか上半身裸でナオコとキスしていた。
今まで見たこともないくらいセクシーなその姿に、俺は酔いも忘れて見入ってしまう。
なぜか少しだけ、ナオコを羨ましいと思いながら。





こんなこともあった。



その日俺の家に遊びにきていたフミヤとアヤコはまあまあ付き合いの長いカップルで、なんで「まあまあ」かというと、別れたりくっついたりを繰り返していたからだ。
付き合ってはよくわからない理由で別れて、またよくわからない内に元の鞘におさまっている。
そんなカップルだった。



フミヤはA組の男子で、テニス部だからかおそろしいくらい日焼けした肌が、彼のほっそりした体躯と不釣り合いだった。
感情の起伏というか、テンションの上がり下がりの激しい奴で、なんでもノリで決めてしまう。
気分がよければ嫌いな奴にもすごく親しげな雰囲気でハイタッチをしたり、くだらない冗談を言い合ったりするのだけれど、そうでないときの彼は、ゾンビのように顔から生気がごっそり抜け落ちる。
そうして話し方にも抑揚がなくなり、ものすごくだるそうにするので、こいつは躁状態のときも鬱状態のときも扱い方がむずかしいな、と、思っていた。
アヤコはD組の女子で、おなじテニス部でもある。
うちの学校の中では、いちおうレベルの高い女子で、くりくりした大きな目と、三つ編みにした髪がトレードマークだった。
なんでだかはわからないけれど、アヤコはフミヤにべたべたに惚れていて、休み時間のたびに会いにフミヤの教室まで行っていたようだったし、ばかみたいな甘い文言が並んだ手紙を、しんじられない熱意を持って書くような女だった。



だからなのか、学校では彼らを「おしどり夫婦」と呼ぶ向きもあって、いわば定番のふたり、という印象だった。
彼らが互いを無視しているときは、みんながそれを面白がって注視したし、彼らが人目をはばからず廊下や教室でいちゃついているのは、もはや名物だった。



「体の相性がいいんだよな」
フミヤはアヤコとの関係を、そう説明した。
中学生の分際で体の相性うんぬんなどというのが分かるのか果たして疑問だけれど、フミヤは以前から他の学校に、セフレがいるとか、年上の女と " ヤってる " などという噂もあったので、あながち嘘でもなかったのかもしれないと、今なら思う。
「体の相性だけかよ」
俺がそう聞くと、フミヤはあいまいに答えを濁すか、ストレートに「好きだからに決まってんじゃん」と言うときもあった。
すべては彼の気分次第だ。



だからその日、遊びに来ていたふたりが俺の部屋にこもって出てこないな、と気付いた時に、どうして " そういうこと " を想像できなかったのかわからない。
とにかく、俺はリビングでひとりでテレビを観ていたし、母親は仕事でいなかったし、妹もいなかったので多分友だちと遊びにでも行っていたのかもしれない。
ふたりがなかなかこっちに来ないな、と思って、様子を見にいくと、部屋は電気が消されて真っ暗だった。
ご丁寧にカーテンまで閉め切っている。
ドアを開けたときにリビングから差し込んだ光りが、俺のベッドに横なっているふたりを照らしだした。
フミヤがにやにや笑いながらこっちを見て、「おう」と言ったので、まったく俺はそんな想像はできなかった。



「何やってんだよお前ら」
肩まで布団をかぶったふたりは、なんとなく奇妙ではあった。
アヤコは顔を隠しているし、フミヤは「おう」と言ったっきり、にやにやしたまま黙っている。
「なんで布団かぶってんの?」
そう言って俺がふたりに近寄り、勢いよく布団を剥いだ。
その下で見えたのは、下半身を露出したふたりで、リビングから漏れこむ光りでもそれがふたりの生足だとよくわかった。
真っ黒な足と、真っ白な足が絡みあっていた。



俺はすぐに布団を戻す。
何を言ったかは憶えていないけれど、ともかく何かを言ってそのまま部屋から出たのは憶えている。
俺の部屋なのに、なぜかその瞬間彼らに気を遣ってしまった。
俺のベッドでエッチしていたふたりなのに、である。



そう間を置かずにふたりが出てきて、フミヤが「悪りぃ悪りぃ」と言いながら俺の横に腰をおろした。
アヤコも「ごめんね」と言い、ふたりの言い方がまるで誠意のこもっていないそれだったので、俺はおもわず笑ってしまう。
「何やってんだよお前ら」
そう言って笑う俺に、ふたりがつられて笑いながら「ごめーん」とまた言った。
「我慢しろや」
と俺が言って、フミヤが「我慢できなかった」とこたえたので、俺はまったくばかばかしい気持ちになる。



性教育をしたって、猿は猿だ。
あの保健体育の女教師がいくら真剣な顔つきで避妊の大切さや性の仕組みを教えたところで、思春期の恋する不良カップルの前にはすべて無意味なのだ。
盛りのついた猿や犬のように、アダルトビデオで仕入れたのであろう前戯やらを試したくてうずうずしている。
猿に教育するには、もっと根気が必要だな、と思いながら、俺はどうでもいい気持ちになって、とりあえず彼らの何らかの " 汁 " が、俺のベッドに付いていないことだけを祈った。





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セックスと後悔とひこうきぐも :: 2015/02/07(Sat)

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幸せだった頃の記憶よりも、その時に経験した後悔のほうが、色濃く記憶に残っていることが多い。





たとえば、あの夏祭り。
俺は十五歳のとき、中学最後の思い出作りをしよう、と誰かが言い出した夏祭りの催しに参加することになった。
俺の地元最大級の夏祭りで、県外からも参加者が大勢やってくることで、その日だけは閑散とした商店街も活気で色とりどりに華やぐ。
主にダンスや民謡舞踏などのお祭りで、俺たち同級生はみんなでヒップホップをやることになった。
学校がおわったあとや、土日の昼間や夜、時間をみつけては練習を重ね、ダンス部のある高校に指導をお願いして振り付けや曲を決めてもらったりと、めまぐるしく日々がすぎた。



俺はユウキのことが気になっていたけれど、一方で好きな女の子もいて、どちらもこのお祭りに参加すべくいっしょのグループで練習を重ねていた。
自分の気持ちに迷いながら、彼らやほかの友だちと昼夜問わずにすごす時間は、充実して、「青春している」感じが楽しくて、ユウキや好きな女の子といっしょに何かをしている感覚が幸福だった。



でも、夏祭り当日、俺はこらえきれずに泣いてしまった。
号泣といってもいい。
好きな女の子と直前までメールをしていて、ひどくつめたくあしらわれた直後だったので、彼女の顔をみたとたん、急に耐えきれなくなったのだ。
ぼろぼろ涙を流しながらその場に突っ伏す俺を、ユウキや他の友だち数人が慰めてくれて、こんな日に俺はどうして惨めにも情けないすがたを不特定多数のひとたちにみられなきゃいけないのかと思った。



八月のよく晴れた、暑い日だった。
太陽のせいでアスファルトは鉄板のように熱く、照り返しが肌をじりじりと焼いた。ひとが多くて、屋台のたこ焼きやら綿菓子やらのにおいがまざって気持ち悪い。
俺はこの日のダンスをほとんど思い出せないのだ。
おぼえているのは、あの時、膝を折って自分のふがいなさを呪って泣いた自分だけだった。





12:53。
BGMはMadonnaで『Iconic feat. Chance The Rapper & Mike Tyson』





それから、生まれて初めて泊まったビジネスホテルでもそうだった。
その日、俺は童貞と処女のどちらもいっぺんに失ったのだけれど、初めてセックスした男は掲示板で知り合った自称二十六歳の短髪の男で、なんとなくイガグリを愛想良く仕立てたみたいな雰囲気の、名前も聞いたこともない外国の煙草を喫って、香りのいいリップクリームを唇にぬった、サラリーマン風の男だった。



俺はそのとき、遠距離恋愛をしていて、会ったこともないそのひとに恋い焦がれているような世間知らずのガキで、だからその日は自分のもてあました性欲に簡単に負けた。
会ったこともないひとではあったけれど、それはもう、この世の終わりと言ってもいいほど好きだったし、自称二十六歳のサラリーマン風と舌を絡ませあって唾液を交換するようなキスをしているあいだじゅう、そのひとの事を思っていたし、自分から腰を振ってまんぞくげに微笑すら浮かべた目の前の男を、俺はそのひとだと夢想した。



奇妙で、息苦しくて、頭のおかしくなりそうな時間だった。
ひどく長いあいだ、サラリーマン風との意味のないキスや愛撫をくり返した気がする。
男がみたこともない茶色い瓶を俺にかざして、それを吸わせたあたりから、俺はぶっこわれた。
我が身をわすれ、夢中でサラリーマン風の首に腕をまわし、声にならない声をあげる。
男が動くたびにシングルベッドのスプリングがぎしぎし軋んで、その振動に興奮した。
頭に深い霧が立ち込めているような気分で、俺はわけもわからず目の前で恍惚と腰を振る男をあいしているような錯覚をおぼえる。
唾ちょうだい、と言うと、男はまるで征服したみたいな笑顔で、いいにおいのするリップを塗った唇から、唾をたらす。
意識が遠くなったり近くなったりするなか、その片隅で、最低だ、と、おもった。



それでもこの快楽からは逃げられない。



目の前のサラリーマン風が苦しげに声をもらしたのと、俺のきもちが濁って、こころの底深く沈殿していくような気がしたのは、ほぼ同時だった。





あいしてもいない男を、あいしているような気がして、必死に目の前の体にしがみついた事に対する後悔だけが、えんえんと残った。
快楽はほんのいっときだけで、すぐに跡形もなく、そこなわれる。
なんの意味もない一日として、そこなわれていく。





好きだったことよりも、傷つけてしまったこと。
あいしてると言ったことよりも、返事を躊躇ったこと。
会いたいと思ったことよりも、会いにいかれなかったこと。
お金を貯めて行けばよかったのに、貯められなかったこと。
知らない男と奇妙なセックスをしてしまったこと。二度と連絡もなかったこと。



ひとは自分の都合のよいことしか憶えていないなんて言うけれど、でたらめだと思う。
後悔だけは、確固とした記憶として俺のなかに刻まれつづける。今も、これからも。





飛行機が煙りをだしながら飛んだあと、そこにひこうきぐもが残るように、俺たちの人生は一直線で、たまにゆるやかなカーブを描きながらつづいていき、やがてうっすらと記憶から薄れていくけれど、後悔したことだけはずっと忘れられない。
俺自身が、なにを思い出すかといえば、いつも後悔したことばかりだ。
八月の夏祭り。
初めてつきあったひととの鬱屈とした関係。
たった一回セックスした男の息づかい。
人生はすべからく、後悔によって構成されていって、後悔のない人生なんてひどく味気ないものだと、俺は過去を受け容れた今ならそう思う。
受け容れるということは、乗り越えることだと思うから。





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Dream's a dream :: 2015/02/05(Thu)

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毎日、仕事に行く道中は自転車に乗りながら、颯爽とはほど遠い必死さでペダルを漕ぐ。
都会のスタイリッシュな若者が、格好良くマウンテンバイクでバックパック背負って、颯爽と風を切って走る姿なんてうそっぱちだと思う。
あるいは、選ばれた、ごく一部の人たちだけがその手の格好良さを発揮しているのかもしれない。





08:58。
BGMはDuran Duranで『Nite Runners』





仕事に行きながら、ステップワゴンのパールホワイトカラーが俺の横を走り去っていくのをみると、彼氏の車なんじゃないかとおもってナンバープレートを確認するのが、俺の癖だ。
彼の車のナンバーは、もうずっと早い段階からしっかり記憶してある。



勿論、それは彼の車なんかじゃなく、まったく知らない他人の車でしかないのだけれど、パールホワイトカラーのステップワゴンをみるとどうしても彼のことを思ってしまうのだ。
たぶん俺だけじゃないはずだ、と、おもう。
そういう些細な一瞬に、誰かのことをふいに思い浮かべてしまうのは、どんな人にもある得ることだとおもう。
それは今この段階ではしあわせなことだけれど、もし、この先ふたりの関係にのっぴきならない状況が襲ってきたばあい、そういう " ふいうち " は全く心苦しいものになってしまうはずだ。
いま、この楽しさやしあわせを手放す気なんて、俺には毛頭ないけれど、一方でこんな楽しさやしあわせが永遠に続くのだろうか、と、寄る辺のない不安をおぼえるのも事実だ。



しあわせや心安さを感じるのも、不安や孤独を感じるのも、どちらも " ふいうち " で困ってしまう。
夢ならいいのに。そう思って、夢はいつか醒めるものだと俺はどこかで気づいている。
夢を現実におきかえられても、それが楽しい、とか、しあわせ、とか、満ち足りた、とかそんなポジティブな言葉で事足りるか、不安とか、寄る辺ないとか取りつく島がないとか、そんなネガティブな言葉をかきあつめた悪夢になるのかは、俺には決められない。



ただわかるのは、いい夢もわるい夢も、いつかは醒めることだ。
どんなに今が完ぺきで、満ち足りていて、仕事が充実していて、学校が楽しくて、勉強がうまくいっていて、不満なく過ごしていても、こんな日々がずっと続くわけがない、と、どこかで冷ややかに思っている。
なかなかつめたい性格だと思うけれど、そういう人間だから、しょうがないのだ。





つい最近、仕事の先輩の女性が離婚した。
付き合っている頃から数えて、十四年くらい連れ添った男と、彼女はびっくりするくらいあっさりと別れた。
それはもう、見事なほどさっぱりしていた。理由は詳しくは聞かなかったけれど、ある日帰ったら、
「私の荷物が外に置いてあった」
そうで、仕方なくそれを持ってその日はビジネスホテルに泊まったらしい。
すぐにマンスリーマンションだか、ともかく部屋を見つけて一人暮らしを始めて、旦那である男から「話がしたい」と言われても突っぱねて、取り合わなかったという。



「私は変わらないよ?」
そう言って彼女は、私の性格知ってるよね? と、(今となっては " もと " )旦那である男にぴしゃりと言い付けた。



それでも、二ヶ月ほど離婚届が役所に提出されることはなく、2014年から2015年へまたがって、ようやくつい先日、それが提出されて受理されたらしい。
その先輩は、清々した、とか、すっきりした、とかそんな雰囲気は微塵も感じさせずに、今まで通り仕事を続けている。
彼女が離婚したとき、だから俺は、時間なんてまったく意味のない飾りだな、と、しみじみ思った。
十四年もいっしょに暮らしてきた男と、いともあっさり離婚を決意して(もっとも、十四年間のあいだで、三回は「危機的状況があった」らしいけれど)勝手に部屋を見つけて、ひとりでちゃっちゃか離婚の準備を進めた彼女を、俺は尊敬すらする。



長い夢から醒めたみたいに、しっかり起きて入念に化粧をし、髪をきっちり整えて、車で毎朝出勤してくる彼女は、すくなくともひどく現実感溢れる女だとおもう。
現実を受け容れて、現実を生きるひとに見えた。それは彼女自身よくわかっているとおもう。
離婚するずっと前から、彼女は、
「なにが起こるかなんて、わかんないからね」
と、まるで知っているみたいに言っていた。
これは夢で、いつかは醒めなければならないのだと言っているような気がした。





この一ヶ月は、すごく慌ただしく、充実していた。
途中インフルエンザで無為な日々を過ごしたけれど、あのインフルエンザがなければ、多分こうしてまたブログを書こうと思うこともなかったような気がする。
仕事は多くて、さらに年明け早々販売実績アップキャンペーンのリーダーに任命されたり、あぁ現実は大変だなぁ、と、心の底からおもっていた。


その日は飲み会で、新年会を兼ねた、退職する後輩の送別会でもあった。
俺はそういうたぐいの飲み会では酒は飲まないと決めている。
だから延々とカルピスソーダを飲みながら、おいしいのかおいしくないのかよくわからない一品料理を、みんなでぎゃあぎゃあ言いながら口に運んだ。
後輩の男の子は、最後の勤務がおわったあとに髪を赤色に染めたらしく、取り外し可能なエクステのようなものをつけていて、見るからにヒッピーか、そうでなければジャマイカのレゲエアーティストみたいで、とにかくかなりファンキーないでたちで現れたので、俺たちは大いに笑ってからかった。



誰も口にはしないけれど、それぞれが楽しさをめいっぱいに吸い込んで、吐き出して、居酒屋の個室は満ちたりた空気で色濃く熱気をはなっていた。
くだらない冗談を言い合っては笑い、それに呼応するように飲み物は減っていった。
お正月の殺人的な忙しさや、そのあとに残った疲れをも帳消しにしてしまうくらい俺たちははしゃぎ、幸福だった。





一次会が終わる時間になって、会費が徴収されていく中、くだんの後輩に用意していたプレゼントを渡した。
仕事中に撮られたスナップ、プライベートで遊んだときに撮ったのだろう変顔写真、それを網羅して一枚一枚おさめられたアルバムと、なぜかTENGAを、彼にプレゼントした。
TENGAは職場の先輩のチョイスで、その先輩は男の子にはいつもTENGAを贈る。
そして贈られた男の子たちは皆喜ぶ。健全な男の子ふうに、うひょー、とかなんとか言って。



「ここを辞めても、俺らはずっと友達だから」
誰かが言い、周りは笑いにつつまれる。
くっさー! とか、青春か! とか、それぞれが思うことをつっこんで、でもけっしてその場がしらけないように明るいテンションは崩さない。
あざーすっ! とくだんの後輩は言って、
「がんばります!」
と、ちょっぴりしみじみした顔で高らかに宣言した。



外に出て、みんなで手で大きな花道をつくる。
結婚式とかでやるような、手を頭上高くあげて繋いで、巨大なトンネルを作ってくぐらせる、あれだ。
くだんの後輩は照れたように、でもそれを見てとられないようおちゃらけた顔を作って、一直線にくぐった。
みんなで笑って、ふいにさみしくなる。
もうさっきの満ちたりた空気ではなかった。
つめたい夜空のしたで、子どもみたいに頬を上気させ、顔を赤らめた大人たちが笑いあう。
子どもじみた行為を自分たちで茶化すみたいに。





「えーしょごくんカラオケ行かないのー!?」
「うん。今日は帰るわー」
「つまんないなー」
「まぁ俺もすぐ帰ると思うけど~」
「珍しい~絶対来ると思ったのに!」
「てか眠くない?」
「明日仕事だりーなぁ」
「私あした早番だし。笑」
「俺休み~!!うへ」
「いいなー。休みた~い!!」



誰がなにを言っているのかわからないけれど、ともかく俺はその日、帰ることにした。
早く帰りたかった。後ろ髪ひかれて長く留まれば留まるほど、あとあと自分がさみしくなるだけだと、わかっている。
いつもそうなのだ。
飲み会の帰りは、いつも、ひどく孤独でかなしい気持ちになる。
たむろする酔っ払いのサラリーマンや、女の子をナンパしている若い男や、路上でこの世の終わりみたいに激しくいちゃついているカップルを、ひとりで掻き分けながら帰るのは、ひどくさみしい。
酒を飲んでいたら、なおさらだ。帰ってる途中で酔いなんて醒めてしまう。
まるで、楽しい夢から醒めるみたいに。



今から帰る、と、彼氏にLINEを送って、靴音を響かせながら歩く。
ざっざっざっ、と、響くそれを聞きながら、すこしでも孤独が紛れればいいと思う。
「迎えに行くよ」
と、彼氏から返信があって、俺はほとんど安堵した。
これからひとりで、彼の家まで帰るのはけっこう面倒くさい。
自転車で延々と、実家から一時間ほどかかる彼の家まで、iPhoneで音楽を聴きながら帰るのは、気楽だけれどこころぼそい。



家に帰り着いて、とりあえずシャワーを浴びた。
煙草のにおいや、ビールのにおい、料理や香水のにおいを熱いシャワーで落としていく。
さっきまでの楽しさや幸福も、ぜんぶ一緒に、排水溝に流れていってしまったみたいな気がした。
さみしさも一緒に流れていってしまえばいいのに、と、思いながら、俺は目を閉じて髪を洗う。
頭からかぶったシャワーの熱さを全身でうけながら、ほんのいっときの夢に浮かされていた数時間前の自分自身をおもった。
もうそこには居ない自分を。





「はい。お土産」
迎えにきた彼氏に言って、ミスドの袋をちらつかせた。
飲み会のときは必ず、彼になにかしらお土産を買っていくことにしている。
イタリアントマトのエクレアやら、ミスドやら。
彼氏はそれには目もくれずに、「こんな時間まで遊び歩いて」と悪戯っぽい目で言った。
すでに日付は変わっている。ステップワゴンのデジタルの表示を見ながら、言い訳するみたいに軽く笑ってみせた。
「不良が」
彼が言って、そう言うときの言い方が完全にちょっかいを出すときのそれなので、俺はまた笑ってしまう。
「帰ろう」
と、俺は言って、ついさっきまでの夢のような時間をおもった。
いま、この瞬間が夢なら醒めないでほしいと思いながら、まばらな星空の下で、ステップワゴンのエンジン音が響いた。





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彼について俺の知っている二、三の事柄 :: 2015/02/04(Wed)

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思いがけず、昔の知り合いと繋がっているひとや、自分が一方的に知っているひとの知り合いと出会ってしまう、ということは、" まま " ある。
自分は直接は知らないひとなのに、" そのひと " の知り合いは、" そのひと " を知っている。
ひどく奇妙な感覚だ。





職場の同僚が、たまたまそのひとの先輩だったということが、ついこのあいだ分かってびっくりした。彼も、すごく驚いていて、「すげー。鳥肌たった」と、笑った。
だから久しぶりに、俺は、犬童勇士くんのことを思った。
犬童勇士くんのことを俺はなにも知らないけれど、確かに一方的には、知っていた。





10:05。
BGMはMachine Gun Kellyで『Invincible feat. Ester Dean』






犬童勇士くんは別に友だちでもなければ知り合いでもない。だから勿論、むこうが俺を知っているはずなどないのだ。
なのに何故俺が彼を知っているかというと、理由はふたつある。
ひとつは、彼と、彼の友だちが運営していたホームページをたまたま見つけたから。
犬童勇士くんはバスケ部で、おなじバスケ部仲間ふたりと一緒に、そのホームページをやっていた。中学から高校にかけて、個人でホームページを作って、そこで日記を書いたりプリクラや写メを公開して仲間内にみてもらうという、ミクシーなんかを飛び出したネット活動が流行っていた。



ふたつめは、犬童勇士くんがある日突然、死んだからだ。
自殺だった。噂では、マンションから飛び降りただの、電車に飛び込んで轢かれただの、とても真実など判別できないような憶測があまた流れて、尾ひれがついて、いろんな学校に流布していた。



俺たちが、高校二年生のころ。17歳。





犬童勇士くんはバスケ部で、勿論バスケは好きで、うまかったらしいし、顔も可愛らしい感じのいわゆる「モテ男」で、中学時代は同じ学校内で、いくつかのファンクラブがあったらしかった。
ホームページを読んだ限りだと、至ってふつうの子という印象をうけた。
特に高飛車でもなく、特に神経質でもなく、ごくふつうに、クラスの人気者で中心人物のひとりだった。



彼は頭が良くて、俺たちの地元の、県内でも一、二を争う進学校に進んで、勿論バスケも続けて、俗にいう「天は二物を与えず」なんてうそっぱちもいいところの、二物も三物も与えられた、誰の目からみても最高の人物だった。
ホームページの日記には、勉強のことはあまり書かれていなくて、触れられてもせいぜい中間テストとか学期末テストのことくらいで、あとはほとんどバスケの話題だった。



とにかくバスケが好きで好きでたまらないというのが、日記越しから伝わってきたし、それが犬童勇士くんを犬童勇士くんたらしめている、重要なコンテンツのひとつなのだと思った。
まさに完ぺきなヒーローで、絵に描いたように楽しい人生を送っているようにみえた。



俺とはまるで違う、きらきら輝く人生を目の当たりにして、しょうじき、嫉妬した。
こんなにも違う人生を生きられるのかとほとんど絶望に近い気持ちでおもったし、自分じゃきっとこんなに光り輝けない、と、胸の内で、諦念を込めて自嘲したりした。
だから犬童勇士くんの日記を読むと、その頃にはもうほとんど羨望の気持ちしかなかった。
自分自身の劣等感ばかりが目について、とてもまっさらな気持ちで日記を読むことなんてできなくなっていた。
俺はその頃、自分はいよいよゲイなんじゃないかという疑念を、認めようか否か、迷っていた。これからどう生きていくのか、どういうスタンスで恋愛をすればいいのか。
どういう嘘をついていけばいいのか。



犬童勇士くんとは無縁の人生で、天と地ほども差のある人生を、俺は生きている、と、ほとんど被害妄想的な思考でおもった。





だから、犬童勇士くんがトラックと接触事故を起こして、一時は意識不明の重体で生死をさまよったという日記を読んだとき、心の底から意外だとおもった。
意外というのは、つまり、こんな風に人生に躓くなんて、という半ば最低な理由からなのだけど。


彼と一緒にホームページを運営している別の友だちが、そう書いているのを読み、ここまで何もかもうまくいっていた人生が、こんなにもあっさりと綻びをみせるなんて信じられない気持ちだった。
犬童勇士くんの人生は、俺には完ぺきにみえたから。
交通事故という、しかも携帯をいじっていただかで自分から信号無視して飛び出してしまったという不運な事故で、自分のスターダムな人生を危険にさらすなんて、言葉を悪くしていえば、愚かだとおもった。
気をつけてさえいれば、こんな事にならずに済んだはずなのに。



後日、お見舞いに行ったという彼の友だちが、ベッドに横たわる犬童勇士くんの写メをホームページにあげていた。
何だかよくわからない管をいっぱい付けられて、人工呼吸器で息をする、痣だらけの犬童勇士くんが、俺にはとてもあの犬童勇士くんとは思えなくて、その写真をホームページにアップした友だちの神経も信じられなかった。
もうその頃には、峠は越えたらしかったから " 洒落にならない " 状況は脱していたにしても、そんなみじめな姿の友人を、大勢のひとがみているホームページで公開するという感覚が、俺には理解できなかったのだ。



その写真をみて、他のひとたちはどう思うだろう。
「痛そう」とか「かわいそう」と同情するか、「助かってよかった」とか「早く元気になって」と安堵するか、「近況を教えてくれてありがとう」と感謝するか。
そのどの感情も、俺にはわからない。
もし俺が犬童勇士くんで、自分がいろんな管に繋がれている姿をさらされたら、たぶん烈火のごとく怒るはずだ。
そんなの、自分のプライドが許さない。
そんなみじめな自分がよく知りもしないひとたちに見られて記憶されるなんて、冗談じゃない。



「勇士の容体は安定しています。早く元気になってバスケしようぜ」
そう添えられたキャプションを、俺は白々しいとすら思った。
すべて心の中で願えばいいのに。こんな場所でさらすまでもなく、自分の胸の内だけに仕舞っておけばいいのに。





犬童勇士くんの意識がもどって、容体も回復していってるようだった。
ただ、再開された彼の日記には、以前のような自信は、もう見て取れなかった。
自分を卑下する言葉がよく並ぶようになったし、なんとなく、たいくつそうな雰囲気が文面からわかった。
犬童勇士くんは事故の影響で、頭をすこし強く打ちすぎてしまったらしかった。
そのせいで、勉強しても勉強しても、数時間経てば忘れてしまうこと、進学するのは極めて難しく、留年するつもりで必死に勉強していること、事故の後遺症で、バスケがもうできないということ。



日記を順に読んでいくと、だいたいそんな内容のことが書かれてあって、彼の身の上にふりかかった災難をおもった。
よく知りもしない俺からみても、文面から察する彼は必死だった。
なんとか元の自分に戻りたい。どうにかして遅れた勉強を取り返したい。どうにかしてバスケのことを忘れたい。



どうしても取り返せないものを、どうしても取り返すために、犬童勇士くんは闘っているようにみえた。
それは自分自身との闘いで、誰かが助けてあげることもできない。誰かの言葉が、以前みたいに素直に心にはいってくるかもわからない。
ただそれでも、彼の日記のコメント欄はいっぱいだった。常に十以上のコメントがついて、そのどれもが、犬童勇士くんへの叱咤激励と慰めの言葉だった。
「勇士くん!また勇士くんのバスケしてる姿見たいです」とか、「勇士くんが元気ないと私も悲しいです」とか、「勇士は絶対そんなのに負けない。また必ず出来るようになるよ!」とか。



書くほうと、読むほう、どちらがつらいだろう。
想像しながら、俺は目に余る偽善をひとつずつ読み込んでいった。
犬童勇士くんの気持ちを想像してみたけれど、そんなの、想像なんてできるはずがなかった。





枯れてさむそうな木々。雲に隠されて暗く濁った空。
街角の本屋。築年数うん十年の中学校。
電車の踏切。警報機の、けたたましいサイレン。





犬童勇士くんが死んだとわかったのは、彼が死んで数日経ってからだった。
またしても、ホームページを共同運営していた友だちが、自分の胸の内とともに書き記していたのだ。
詳しいことはさすがに書かれていなかったけれど、だいたいのことはわかった。
自殺だったこと。ふつうに家を出たこと。家の裏が踏切だったこと。急ブレーキの殺人的な不快音と、知らせをうけたときの気持ち。



「どうして」と、その友だちは書いていた。たぶん文字に起こしたら、書き殴ったようなふうになる、そんなテンションで。
ドウシテ死ンダンダ?ドウシテナニモ言ッテクレナカッタンダ?ドウシテ?ドウシテ?



俺はもう、犬童勇士くんの気持ちを想像することなんてできなかった。
ただ、残されたお母さんのことや友だち、彼のファンクラブの会員の心情を想像して、ひどくナーバスになった。
みんな、犬童勇士くんが大好きだったはずだ。
誰もが回復を喜び、また元気になるものと信じていたはずなのに。
またクラスの人気者として、みんなを楽しませてくれるはずだったのに。
留年してもバスケができなくなっても、また笑ってくれると信じていたはずなのに。



犬童勇士くんがこときれた瞬間を想像してみる。
電車に轢かれたのが事実なら、たぶん時速40キロ前後、特急なら時速130キロ、生身の人間がぶつかれば即死のはずだ。
痛いという感覚はなかったと思う。あっという間だったはずだ。
どんな気持ちで死んでいったのだろう。恐怖心はあったのだろうか、それとも何も感じていなかったのか。誰かを想っていたのか、何も思わず、ただ死へと突き進んだのか。



いくら想像してみても不毛で、気がおかしくなりそうだ。
誰にもわかるはずないのだ。
生きている人間に、死んでいくことを自ら選んだ人間の気持ちなんて、わかるはずがない。わかりたくもない。



犬童勇士くんのホームページには、数え切れないほどの哀悼のメッセージが寄せられていた。
残された友だちが、特設のページを作って、そこをメッセージ置き場と称して、みんなそれぞれ哀悼の意を示していた。
俺は、それすらも奇妙な感じがしていた。
犬童勇士くんはもういないのに、犬童勇士くんのホームページで、彼の友だちたちが彼の死を、不特定多数のひとたちに向けて発信して、喪に服しているその様が、ものすごく珍妙なものにおもえた。
メッセージは、後に印刷して犬童勇士くんのお母さんに渡してあげるらしい。
それらの文章は、彼を直接は知らない人間からもたくさん書き込まれていた。
それぞれが、それぞれの表現で哀悼の意を記している。
「勝手に死にやがって」「どうしてこんな馬鹿なことを」「好きでした」「いつか会えるよね」「学校で会えるのが楽しみでした」「バスケしてる勇士くんが大好きでした」「天国でもバスケしてるのかな」「みんなでお葬式いったよ」「みんな泣いてたよ」「みんな悲しんでたよ」「どうして死んじゃったの?」「これしか道はなかったの?」



どれも、頭が痛くなるようなメッセージだった。
読めば読むほど自分が何者なのかわからなくなる。
犬童勇士くんは俺のことは知らない。俺がたまたまこのホームページを見つけて、一方的に知っているだけの、ただの他人だ。
それなのに、どうしてこんなにも犬童勇士に感情移入してしまうのか。
なんで彼が死んでしまったのか。死ぬって、どんな感じなのか。



俺は、ホームページを見るのをやめた。
とても気が持ちそうになかった。これ以上感情移入したところで、俺は赤の他人だ。彼のことなんて、ほんとうは何も知らないのだ。何も。まったく。



後から別の進学校に通っているタツヤに聞いたら、事故のあと、犬童勇士くんは塞ぎ込むことが多くなっていたらしい。
いろんな噂が流れていて、死因はよくわからない。
電車に飛び込んだが、一番よく言われているけれど、飛び降り自殺だったとか、車に飛び込んだとか、いろいろ根も葉もない噂があるらしかった。



「犬童くんのプライドが許さなかったのかもしれないな」



タツヤが真顔で言って、たぶんそうだったのだろうと、俺も思った。
それまで順調に進んできた人生が、自分の不注意とはいえ、ある日急に崩れ去ったのだ。
絶望のひとつやふたつ、するのが普通だと思う。



「カナが、自殺する前に勇士くんから告られたらしくて、返事する前だったらしいんだけど、相当ショックだったろうな」
タツヤが言って、そういえばカナは犬童勇士くんと同じ学校に進学したんだったと思い出した。
カナとこの後メールしたとき、俺が彼のことを知っていることは言わずに、落ち込んでいるらしいって聞いたけど、大丈夫? というようなことを聞いてみた。
カナは、「もう二度と立ち直ることはないから」とだけ言った。
何もできないんだ、と、そのとき思い知ったし、自分の浅はかな行動を心から恥じた。
カナからは、それ以来、返事がかえってきていない。





「カナも、好きだったのかなぁ」
俺が言い、タツヤはぶっちょうづらで、知らねえ、とだけ言った。
タツヤと話してから、俺は犬童勇士くんのことを考えるのは止めた。
これ以上考えても、俺は犬童勇士くんじゃない。彼の友だちでもない。わからない。わかるはずないのだ。死のうと思って、それを実行に移したひとの気持ちなんて。





つい先日、職場の同僚とはなしていて、たまたま犬童勇士くんの話をしたら、知り合いだったので、本当におどろいた。
やはり彼は、電車に飛び込んで、こときれたらしかった。
「地元の本屋に行くっていって家出て、あいつの家の裏に線路があるんだけど、そこからすぐに、キキキィーッ!!って!急ブレーキが聞こえたんだって」
同僚はそう言って、びっくりしたぁ、と、しみじみつぶやいた。
まるで遠い昔のことのように、なつかしげに。




俺も、あの頃の感情はおぼえているんだけれど、正確に気持ちを思い起こすことはできなかった。
まるで小説を読んだあとのような、" 余韻 " は残っているけれど、それを説明しなさいと言われてもうまく出来ないように、あの頃の気持ち自体はうまく思い出せない。



そういうふうに生きていくしかないのだ。
思い出にして、克服して、どうにか自分を守るしかない。
もう、あのホームページのURLもわからないし、カナがあの後どうやって悲しみを乗り越えたのかもわからない。
ただ、あの時なにかに取り憑かれたみたいに、あのホームページを貪り読み、犬童勇士くんの気持ちを想像し、憧れていたことは、ぜんぶ思い出になった。
すべては時の彼方だ。取り返すことはできない。犬童勇士くんを取り返すことができないように、俺もあの頃のたしかな気持ちなんて、取り返しようがないのだ。





どうしても取り返せないものを、どうしても取り返すために。





俺はあいかわらずこうして昔の気持ちを再現しようと、このブログを書いている。
ときおり、俺は自分が犬童勇士くんだったら、どうしただろうと想像する。
犬童勇士くんとして生きた人生を想像して、そしてやむを得ず死を選択した彼の胸のうちを思う。
犬童勇士くんは死の瞬間、なにを見たのだろう。
彼はきっと、他の人とそう変わらなかったんじゃないか。怖くて怖くて、でもこのまま生きていくことも怖くて、どうすることもできなかったんじゃないか。
彼の声も、ほんとうの顔も、元気だったころの姿も、俺にはわからない。
ただ、あの頃みていた景色は、俺とそう変わらなかったんじゃないかと思ってみて、すこし安心する。
犬童勇士くんは普通の男子高校生だった。バスケが好きで、勉強が得意で、クラスの人気者の、男子高校生だった。



この街はあの頃と、なにか変わっただろうか。
あの頃の犬童勇士くんが見たら、どう思うだろう。あの頃の俺が見たら、どう思うだろう。
いずれにしても、あの頃を取り返すことは、もう、できない。




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If I Were A Girl :: 2015/02/02(Mon)

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たまに思うことがある。
女の子だったらよかったのにな、と。
俗世間はひどく不自由で、自己否定の精神だけはじょうずに芽生えさせる。
自分がひどく愚かなんじゃないかって気に、させる。





10:14。
BGMはBeyonceで『If I Were A Boy』


最初に聴いたとき、俺はどういうわけかてっきり、これはLGBTの曲なのかな?と、思った。


たぶん、「If I were a boy = 私が男の子だったら」という意味なので、そう勘違いしたんだろうと思う。
ほんとうはいつもの、ビヨンセお得意の男性バッシングソングのバラード版といったところだ。浮気男の、歌。


私が男の子だったら
電話の電源は切っておいて
壊れたってことにしておく
そしたら彼女がいないんだって思ってくれる
まず自分の都合を考えて
ルールはそれに合わせて作るんだ



こんな感じの歌詞。







男を好きになると、ややこしいなと思うことがよくある。


男っていうのは友達の時は、楽しくて、気兼ねなくて、心地よくて、ばかやって、やれあの女は可愛いだの、やれあの後輩がムカつくだの、
そんなどうでもいい話で盛り上がって笑ってられる単純な存在でいてくれるから、こっちもこころおきなく単純な存在でいられるんだけど、
いざ目の前の男を恋愛の対象にしようとすると、事はむつかしくなる。
恋愛というと聞こえはいいけれど、要は性欲が絡むと男っていうのはほんとうにどうしようもない。


まず、準備が男女のそれに比べてめんどうくさい。
ゲイのばあい、セックスの前は必ず、どちらがタチで(攻める役のこと)、どちらがウケなのか(攻められる役)、ハッキリさせないといけない。
それに、まあ軽い抜きあいならまだしも、最後まで致すなら、それはウケの負担というのは大きくなる。
然るべき部分を入念に洗って、セックスする数時間前は食事を断ち(これは個人差があるけれど)、タチのテンションによってはイかせてもらえなかったり、痛かったり、物足りなかったり。



まぁ、セックスに限った話ではないけれど。
セックス以前の問題を抱えてる子もいる。
好きになった相手が、異性愛者だったら?





どうする?





好きに理由はないってよく言うけど、理由があればいいのに、と、いつも思う。
理由さえあれば、まだ強がっていられるのに。
でもそれは、ある日急に降って湧いて出る。
掃除した部屋も次の日には、うすくホコリがゆらめいてるように、恋心も、頭の中で整理してつきつめようとしても、すぐにほころびが出てくる。


好きって何だよ。好きの定義は?


自問自答しながら、気がついた時には、部屋の中のあるのかないのかも微妙なホコリは、ねずみ色したはっきりと目に見えるものとして存在を主張してくる。
放っておけば、それはどんどん溜まっていって、大きくなる。
ふわふわと、地に足がついていないから、ふわふわと、ただよう。





中学生の同級生で、ユウキ、という男の子がいた。
ソフトボール部の副キャプテンで、勉強は中の下くらい、つねにダルそうで、よく授業中に居眠りをしては先生に怒られていた。中学生のくせに煙草を喫っていて、すきな銘柄はセヴンスター。誰かからもらったらしいジッポのライターと、セヴンスターは彼のお気に入りだった。一重まぶたで、すこし目付きが悪く、でもすこしはにかみがちで、髪を伸ばすのはめんどうだからと坊主頭であることが多かった。


ユウキはけっして聡明なほうではなかったし、むしろちょっと頭のネジが緩んでるんじゃないかと疑うくらい単純というか、良くいえば子どもっぽくて、悪くいえば馬鹿だった。


「しょご!」


普段は名字で呼ぶ癖に、たまにそうやって名前で呼ぶ彼を、特になんともおもっていなかった。おもっていないつもりだった。





だから初めてユウキからキスされた時、じぶんの心のなかにさざ波のような音がしたのが分かったから、動揺した。
じぶんで記憶してる限り、ファーストキスは彼だった。
愛じゃない。恋でもない。好奇心。ただの興味と面白半分でのキスは、けれど、俺の心をつかんで離さなかった。


元々は、その日泊りに来ていた友達ふたりのうち、ひとりがユウキで、俺が寝ているあいだにそのふたりは「ただなんとなく」俺にキスした、と、言った。
それは勿論ふいうちだったし、寝ているあいだにそんな事をされているとは知らない俺は、真っ向から抗議した。


「はぁ?なんで?男同士なのに。てか俺ファーストキスだったんですけど!」


ぷりぶり怒りながら俺はまくし立てた。ファーストキスを奪われたというのが腹立たしかったし、何より半笑いの彼らの顔にまた腹が立った。ユウキはすこしだけ呆れたような顔で、

「もう諦めろよ」

と、言った。そう言いながら、口を近づけてきて、された。はっきりと。唇のやわらかい感触とユウキのにおい。ユウキはすこしだけベビーパウダーのにおいがする。思わず肩に手をまわして抱き寄せたくなるような、そんなにおい。


俺はなにも言えなくなった。あの瞬間から、心のなかに妙なしこりが出来たような、違和感のようなものがあるのがわかった。もやもやと言ったほうがいい。心臓が、すこしだけ早音をうつのがわかった。





好きなのかもしれない。そう心の中で思いかけてはやめた。考えることもしなかったし、考えたくなかった。
考えて、もし、そうだったら? 好きだなんてありえない。何かの間違いだろうし、たぶん、たぶん、たぶん間違いだ。
オトコドウシだ。俺は女の子じゃないし、ユウキもそうじゃない。
オレハオンナノコジャナイ。





もし俺が女の子だったら





中学三年の、夏から秋にかけて、ユウキの実家にすこしだけ居候のような形でお世話になったことがある。俺の家の事情で、ユウキのお母さんは快く受け入れてくれた。彼の家はお母さんとお父さん、ひとつ年上の兄と、三匹の犬がいた。モモと、ポチと、ハナ。三匹ともすごくよく吠える犬で、最初にユウキの家に行ったときはいつも吠えられていたけれど、いつのまにか懐いてくれるようになった。特に、ハナは俺のお気に入りだった。


兄ちゃんは中学時代はユウキと同じソフトボール部だったけど、高校ではバスケ部で、よく家でケーブルテレビのNBAの試合を観ていた。メガネをかけて、あまりユウキと似ていない。
お父さんのほうは、少し怖い雰囲気のひとで、同じくメガネをかけてよく台所前の食卓に腰掛けて、パーラメントというほそながい煙草を喫っていた。ランニングシャツとパンツ一丁で、たまにそこから男性器がひかえめに、顔をだしていた。
無口なひとだった。




「ゲームばっかしてないでちっとは勉強しろ」




そうぶっきらぼうに言っては、煙草をふかしてた。ユウキは、お父さんの事があまり好きじゃない。
いつも、お父さんを睨んでた。強く、でもすこし怯えたような、犬のように濡れた瞳で。





ユウキの家にお世話になって、何ヶ月か経ったころには、ユウキは俺の中でとくべつな存在になっていた。
学校でも家でもいっしょだし、寝るときも、隣に布団をしいて寝た。ユウキはたいてい部活のノースリーブウェアーを着て寝ていた。たまに、上半身裸で。
ユウキの、ベビーパウダーのようなにおい。



好きかはわからない。でも、ユウキがただの友達という枠を超えて、じぶんの心の中で大きくなっていくのはわかった。ユウキは笑うとき目がなくなる。もともとあまり大きくない彼の目が、笑うと一段と細くなる。きれいな三日月形に、まるでくったくなどないと言うような顔で。ユウキの笑った顔は好きだった。それだけが、その時じぶんが断定できる、はっきりとした「好き」だった。




「俺きょう○○でさぁ~。笑」

『へぇー』

「そしたら3組の副担のさ、久保がなんかごちゃごちゃ言ってんだよ。まっじうるせー。もっ、ほんとカァ~って血がのぼってさ、思わず怒鳴りそうになったよ」

『まじか。笑』

「めっちゃあん時煙草喫いたかったもん。あ~あとで母ちゃんとか寝たら外に煙草喫いにいこーぜー」





ユウキの話はだいたいが「ムカついた話」と「きょう自分が思ったこと」と「他の友達がどうだった」という話ばかりで、別にそれがとくべつな事かというと全然そうじゃないんだけれど、その時の俺にはかけがえのない時間だった。
話の合間でユウキが笑うと俺も笑ったし、そうしていられることが何より嬉しかった。


「きょう篠田さんがさぁ~」
ユウキが言う。




「部活のとき手振ったら、むこうも振り返しゃいいのに、すげー笑ってんの。も、なんか知んないけど、すげー笑ってんの。笑」




篠田さん。ユウキの彼女で、陸上部のエースで、部活に集中したいからと土日もふたりでどこかに出かけることもなく、メールのやり取りと学校でちょこっと会話するくらいの、ほんとうに彼女なのかも怪しい彼女。ユウキの、彼女。


ユウキが篠田さんの話をするとき俺は、聞いてはいるが内心つまらなかった。他人の恋愛だから興味がないというわけではなく、ただ、篠田さんとのちょっとした出来事をのろけるユウキを見ているのが、つまらなかった。篠田さんの話をしているときの彼は、ちょっとだけ違う人みたいだ。ちょっとだけ、男っぽい顔で誇らしげに話す。


頭の中でいらいらが募る。どうしてそんな休みの日にどこかに遊びにも行ってくれない女のことでそんな嬉しそうに話せるのか。どうしてメールでしか会話しないくせにそんなに幸せそうな顔をするのか。どうして俺と話してるのに俺なんかここにいないと思わせるような気分にさせるのか。


わからない。わからない。ワカラナイ。


わかるのは、心臓がきりきりと痛むことくらいだ。きりきりきりきり、糸で擦られているような感じで、うっすら血が滲むような痛みが、しんしんと降りそそぐ夜気のように俺の自意識にはりついて、鬱陶しかった。


「好きだよって言ったら、好きだよって返してくれるんだ」


ユウキは尚も話し続ける。メールでしか聞いたことがないんじゃないかという篠田さんからの「好き」を、俺に話しながら反芻してる。嬉しそうに、目のないくったくのない、俺の好きなえがおで。





俺が、もし女の子だったら、自由にこいつに好きって言ってもいい。そしたら、篠田さんなんか放っといて、ふたりでどこにでも遊びに行ける。カラオケでも、河川敷でも、裏道の煙草を喫うひみつの場所にも、友だちのヤンキーが溜まってる場所にも。
そしたら、メールなんかじゃなく直接、こいつに好きって言える。
夜、寝ているこいつを横目で見ながらむりやり逸らして眠ることもない。
朝、学校にいくときにお互いへんな間隔をあけて歩く必要もない。


もし俺が、女の子だったら。もし、俺がーー


わかってほしいのに。俺の気持ちを知ってほしいのに。










だけど普通の男の子だから
わからないよね
わかるわけないよ











俺は男だから、言えないよ。言わないよ。なにも。ずっと。


「しょご、煙草喫いにいこーぜ」




ユウキはいつものように部活のときのノースリーブウェアーで、俺を呼ぶ。俺はそれに従う。外は風がここちよくて、星ひとつ見えない。
ユウキがセヴンスターに火を点ける。俺もおなじ、セヴンスターだ。
ユウキの吐いた煙がゆっくりと空中に舞いあがって、やがて空気と混ざってわからなくなる。
俺の気持ちみたいだと思った。
俺も煙を吐く。吐きだしたそれは、ユウキのほうに流れて、ぶつかって、すり抜けて、消えていった。
俺の気持ちみたいに。





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煙草、ライター、思い出 :: 2015/02/01(Sun)

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何の為に、こんな生活してるんだろう。
中学三年生の俺は、胸のうちでへきえきとした思いを抱えながら自問する。
夏で、どこもかしこも暑さで空気が淀んでいて、俺には、帰る場所なんてなかった。





1月31日、0:23。
BGMはMazzy Starで『Lay Myself Down』





タツヤとユウキは中学校からの同級生で、たぶん、俺の人生ではじめて出来た友達だとおもう。



幼稚園のころからあまのじゃくで、スキモノだった俺は、友達と呼べるような存在なんてひとりも居なかった。
友達なんて、いらないと思っていた。


そのせいで、クラスメイトから奇異の目でみられていること、キャッチボールやサッカーをして遊ぶ友達もいないから、いつまで経ってもスポーツがこれっぽっちも出来ないこと、めったに笑わないから、たまに笑うとぎょっとされることー。



幼稚園から小学校の六年間は、俺にとっては暗黒期だ。
今からおもえば、よくあんな状況でひとりでやってこれたと感心すらする。
まるで難破船のように救い様のない俺は、ぶっちょうづらで、いつも心細くて、それでもひとりで頑張っていた。
誰かに頼るとか、誰かに寄り添う術を、なにも知らなかった。



中学二年生のときに、転機がおとずれた。
同じクラスになったヤンキーっぽい奴らと、何故か仲良くなった。
たぶん物珍しかったんだとおもう。そうでなければ、俺みたいな何考えてるかわからないような、ちょっと危ない感じの奴と仲良くしようなどと、誰も思わないだろう。
その中のひとりがタツヤで、隣のクラスだったユウキと仲良くなるのも、そう時間はかからなかった。



タツヤは " 天パ " 野郎で、ちゅるちゅるの髪の毛をよく弄るのがクセだった。顔は、Def Techの片割れの、日本人のほうによく似ている(彼をすきだと言っていた女子が、そう言っていた。丁度Def Techといえば、その頃が一番人気があったから)。
眉毛をすきバサミで整えていて、中学生のくせに妙に自然な感じでかっこよかった。
背伸びしている感じ、というのが全然なくて、そのいでたちとは異なる甲高い声で喋るのが、タツヤの気取りのない自然な雰囲気をよりうまく演出していた。



ユウキといっしょに、タツヤのおばあちゃんの家に泊まりに行こう、という事になったのは、中学三年生の、夏のことだ。
その夏は俺にとって、ひどく慌ただしい夏だった。
親の借金や家の問題、それに伴う住むところの問題、放置されていた問題が一気におしよせて、整理のしようがなかった。


それで、しばらくユウキの家だったり、他の友達の家だったりに身を寄せていた。
タツヤの家はいろいろと事情があって厄介になることはなかったけれど、おばあちゃんの家なら大丈夫だから、ユウキもいっしょに三人で泊まろう、ということになったのだ。



「おばあちゃんの家って、煙草喫えるの?」

俺は肝心なことを念を押すように聞いた。
中学生の分際で、俺たちは三人とも喫煙者だったし、それはある種の仲間意識のようなものでもあった。
中学三年生なりの、子供じみているけれど、その時なりの。



『大丈夫大丈夫!!ばあちゃん早く寝ちゃうし、部屋別々だから!ばあちゃんも煙草喫うから臭いもオッケーだし』

タツヤは無表情で淡々と言った。



『おっしゃ!じゃあ決まり!!』

ユウキが調子よく言う。お調子者のきらいがある彼は、けっこうマイペースで物事を進めたがる。



『じゃあ決まりな。夕方の七時に俺ん家に集合!!』

タツヤの号令で、その日はそういう段取りになった。
俺にとって、自分の家以外の場所にいるという状況は、一ヶ月以上つづいていた。





「おばあちゃんの家」と言っても、普通の団地の一角で、特に物珍しいことは何もなかった。
タツヤのおばあちゃんは無口で、だるそうに背もたれに腰掛けては、おっくうそうに煙草を口に運んでいた。
たぶん、タール1mm。細長くて、女の人がよく喫っているようなやつだ。

何も話さない。というか、何て言っているのかよく聞き取れない。
タツヤだけが、おばあちゃんの言葉に反応して言葉を投げかける。
こういうとき、やはり肉親というのは妙な繋がりでもあるのだろうか、と、訝しんでしまう。



やがて、そんなに時間もかからずにおばあちゃんの就寝時間がやってきた。
「あんまり夜ふかしするなよ」と、そんな感じのことを言って、寝室のほうに引っ込む。




待ってましたとばかりに、タツヤが煙草に火を点ける。
ユウキと俺もそれに倣い、それぞれ火を点けた。
他人の家で、しかもすぐ側に大人がいる中で、こうして不良っぽいことをしているのがスリルがあり、それだけで " 泊まり " っぽくて、面白い。




『しょごは、まだ家見つかんないの?』

タツヤが相も変わらず無表情で聞いた。
タツヤは、普段はわりと表情がない。




「うーん。どうだろ。親が探してるの知らないけど、多分探さないとやばいだろうし、どうにかなるんじゃない?」




「ふーん」とタツヤが言って、それぞれ各々の話をはじめる。特にこれと言って印象のない、内容のない話だ。
誰が何を言ったとか、あいつがこうだからこうしてやった、とか、そういうとりとめのない話だ。
何をどう話したのかも、いまとなっては思い出せない。



ただ、タツヤが話してくれた事で、ひとつだけ強烈に印象に残っている話が、ある。
タツヤのお父さんの昔の友人の話だった。


タツヤがまだ小さい頃、近所にとても親切で良くしてくれたおじさんが居たらしい。
そのおじさんはタツヤ一家と家族ぐるみでの付き合いがあったらしく、お父さんとは特に仲が良かった。
ある日、タツヤ一家が外にご飯を食べに出かけたら、テレビが点いていて、ニュース番組が流れていた。
「外食なんて滅多にしないから、すごい浮かれてた」タツヤは、そんなことには気がつきもしなかったらしい。
他愛もないニュースがだらだら流れていく中で、ひとつのニュースが、タツヤのお父さんの耳に入ってきた。
それを聞いて、彼のお父さんは急に動揺した様子で、
「なんでだよ!なんで!」
と叫んだ。
目には、涙がたまって、それがぽろぽろ溢れていた。



そのニュースの内容は、なんでも例のおじさんが、お金に関することで何かまずい工作をしていたのを、隣の家の人間にみつかって、口封じのために殺めてしまった、という内容らしかった。




『父ちゃんが泣いてるところ見たの、後にも先にもあの時だけだなぁ~』




タツヤはずっと無表情のまま、煙草をふかしながら言った。
タツヤのお父さんとは何度も会ったことがある。
とても明るいひとで、顔はタツヤそっくりだ。年中、坊主頭で背が高くて、怒るとちょっとだけ、こわい。



その話を聞きながら、俺は、人の歴史というものを考えていた。
俺が知らないだけで、タツヤのおじちゃんには、その犯罪を犯してしまったおじさんと、タツヤのおじちゃんの歴史があって、それは多分誰かが聞いたところで、一笑に付してしまう様なものだと思う。
誰かにとってはその男は犯罪者だけど、タツヤのおじちゃんにとっては、大切な友達だったのだ。
それは、それまでの時間があったからそうなれたけれど、それがなかったら、大して重要な人でもなくて、そのニュースでおじちゃんが涙することもなかったかもしれない。


同じように、俺にはタツヤやユウキの知らない過去があって、それは違う場所でずっと生きてきた彼らにはたぶん理解してもらえないけれど、それを承知でこのふたりが今、友達で居てくれているというのは、こそばゆい感じがするけれど、とてもありがたかった。


俺の親にも、今まで生きてきた分の歴史がある。
今は借金して、離れて暮らしているけれど、じきにまた、歯車が動き出すはずだ。
きっと良い方向にむかう。悪い事ばかりじゃ、ないはずだ。きっと。





煙草の煙を吐きながら、俺は虚空をみる。煙がぬるい空気にまざって、ゆらゆら揺れながら、いつまでも電灯のあたりを、漂っている。
蒸し暑い夜だ。風もなく、なにかの虫の声だけが、ちいさく延々と聞こえてくる。





つぎの日、朝から部活だというふたりと学校の前まで行って、別れた。
自転車でおばあちゃんの家まで来た俺たちは、自転車のまま学校までむかう。
顧問の先生がいたとき怒られないように、と、学校指定のヘルメットをきちんと持参してきていたふたりは、学校の門の前にきてから、それを被る。
その姿は、昨日煙草をくゆらせていた姿とは打って変わって、ひどく子供じみていて、思わず笑ってしまいそうだった。




「じゃ、部活、がんばれよ!」

『おおー。お前も気をつけて帰れよー』




タツヤが言い、ユウキも手を振りながら駐輪場のほうへ自転車を走らせる。
後を追うように、タツヤが「じゃーな!」と言って自転車を漕ぎはじめた。
もうこっちは振り返らない。


その後ろ姿をみながら、こうして朝から友達と、ちょっとした秘密を共有しているという感覚が、ひどく、くすぐったくて、嬉しかった。
この感じが、永遠に続けばいいと思いながら、俺はまたどこか、違う場所にむかって自転車をはしらせる。
自分の帰る場所ではないけれど、帰っても受け入れてくれる、場所にむかって。




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まちぶせ(後編) :: 2015/01/31(Sat)

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昨日とはうってかわって、晴れた空が窓からもわかる。
東京は、雪が降っているらしい。





10:12。
BGMはBjorkで、『Black Lake』





女の子から何らかのアプローチをされるのは、ものすごく久しぶりだった。
だから、彼氏に「それ、怪しくない?」と言われるまで、そんなこと毛頭考えになかったので、俺はほとんど面食らってしまう。



「怪しいかなぁ~?」

俺はいぶかしげに彼氏に問いかけた。
だって、弟待ってたーって言ってたよ。



『弟待ってたのが仮に本当でも、なんで職場じゃなくてわざわざそんなところで聞くのかがわからない』

「そうかなぁ。そうなのかなぁ」

『絶対、きみに気があるとおもう』

「えぇ~!まっさか~。笑」

『わかんないよ!そんなの!』




半ばムキになりながら、彼氏が言った。
こういうとき、相手が男だったらすこしも面白くなさそうな感じでぶっきらぼうに喋るのだけれど、相手が女だと、さもどうでもいいというふうに、適当なことを言う。
そして、ひとの反応を伺って、楽しんでいる。
そういう男なのだ。俺の彼氏ってば。





『で、LINE、来たの?』

「うん。今してる」




クロダさんはLINEを交換して別れたあと、すぐにメッセージを寄越してきた。
目が痛くなるほどの絵文字と、画面越しからでもわかる感じの良さでもって、彼女はさっきの「まちぶせ」を弁解した。





『いや~待ち伏せみたいですみません!職場だとビビりなもので聞けなくて』

「別に、聞いてもよかったのに。笑」




俺は心の底からそう思いながら返信した。誰かに聞かれたからといって、何だと言うのだろう。




『緊張してしまう。笑 みんなには、内緒ですよ?明日は遅番ですか?』

そう返ってきたクロダさんからのメッセージを見て、彼氏がさらに色めきたつ。
「絶対それは気があるやつだよ!」と。




『それは絶対そうでしょ。じゃなきゃ内緒にしてくれなんて言わないって!』

「うーん。そうかも…」

『絶対その女、きみに気があるよ』




彼氏は確信をもっているみたいに強く言った。
からかっているような、馬鹿にしているような、そんな微笑をうかべて。


俺もだんだん、疑ってかかる。どうして職場じゃだめだったんだろう。仮に緊張してしまったのだとしても、他のひとが見ていない瞬間ならいくらでもあったし、ふたりで話す時間も、それなりにあったはずだ。
どうしてあそこで、待ち伏せしていたんだろう。どうして、誰にも内緒なのだろう。


とりあえず、返事をかえそう。
明日は遅番で、彼女は中番だ。そこから尚もクロダさんは話を進める。
今日のタイムセールのことや、晩ご飯のこと(とんかつを食べたと言うと、わぁ~とんかつ!おいしそう!と、ばっちり絵文字つきで返事がきた)、どのぐらい働いているのか、とか、好きな食べ物、嫌いな食べ物。


好きな食べ物を聞かれたときに、ついでみたく続けて、「女の子でもいいですよ。笑」と書かれてあって、ますます疑惑が強まる。
オンナノコデモイイデスヨ?



お茶を濁して返事をしたら、「男が好きとか?笑」と、茶化したような返事が返ってきた。
そう、俺は、男が好き。言わないけど。
まぁ、いいや。
そう、思うことにしよう。
気を取り直して、返事をうちこむ。こっちからも、質問してみる。
働きやすいですか? とかなんとか。



もし気があるのだとしても。
返事をうちながら、俺は思う。
もし気があるのだとしても、悩む余地などない。俺は男が好きで、彼氏がいて、女の子にはもう、そういう種類の興味はもてないのだから。





次の日も、その次の日もLINEがきたときは、さすがにおかしいとは思った。
他愛のない内容ばかりを次の日も、また次の日も。



「辞めても、連絡してもいいですかぁ?」



クロダさんはあいかわらず、絵文字や顔文字だらけのメッセージを寄越す。
ようやく、自分の身にふりかかった " 好意 " というものに目をむけてみた。
もう遠い昔のような感覚で、最後に女の子からそういう気持ちをむけられたときの事を思い出してみるけれど、思い出したからといって、なにか役に立つというわけではない。
むしろ、記憶が遠すぎて、あやふやだ。




ただ、自分にもまだ、女の子から好かれる要素が残ってたんだなぁ、と、妙に感心してしまった。
そりゃあ見た目は普通だし、特にゲイゲイしい振る舞いなんてしたこともないから、ふつうのひとが見ても " そっちの人 " だなんて、まずわからないとは思うけれど。




彼氏は、毎日くるクロダさんからのLINEを完全に「モーション」だと思っている(モーション、である。それって、死語じゃね?と、思うけれど言わない)。そして、それを心の底からおもしろがっている。
「あんまり優しくするといけないよ」と、ニヤニヤしながら言うから、じゃあどうしろって? と、言い返す。




「仕事いっしょなんだから変な態度も取れないでしょ」

『ふーん。まぁ、俺カンケーないしーいいけど』




完全に「面白いネタ」を見るような目で、俺を見ながら言った。
次の瞬間にはもうテレビに視線をうつして、からから笑ってる。
このひとも、俺が女の子にそういう関心がないと知っているから、こんなに平然とばかげたテレビ番組で笑っていられるのだろうな、とおもう。





『お疲れ様です!今日、夜ちょっと聞きたいことあったんですけど、時間大丈夫ですか?』

クロダさんはあいかわらず、毎日LINEを寄越す。
画面越しからでもわかる感じの良さでもって。


「夜?夜は友達と会うからちょっと忙しいかも~」

俺も、なるべくそういう事態は回避したいから、いちばんまともなやり方でお茶を濁しつづける。



『そうですかぁ。じゃあまた時間あるときにお願いします!』

「はいはーい」



この時には、もう、ほぼ確信だった。
告白されるな。そう思って、すこしも心がゆらがない自分がおかしくて、胸の中で笑った。
からからと、テレビを観るように。





クロダさんからまた次の日もLINEがきて、そのLINEで俺は、作戦を決行しようと決めていた。
作戦というのは、つまり、カマをかけてみるということ。俺に彼女がいるということにして、彼女がアクションを起こすのを防ぐ。そうすれば、クロダさんも余計な恥をかかずに済むし、俺も、なにも聞かずに済む。
ぜんぶ始めからなかったことにできる。
そう、おもっていた。




『お疲れ様です!今日私お休みなんですけど、時間あったりしますかぁ?』

ほら来た。そう思って、やや緊張しながら返事をうつ。





「今日はちょっと忙しくて!何かあるならLINEで聞くけど?」

『そうですか。うーん。直接聞きたいので、また会ったときにします。予定空いてる時があったら、教えてくださいね!』



クロダさんはこれから俺が言うことを聞いて、どう思うだろう。
でも、本当のことを知るよりはマシだ。そう言い聞かせて、返事をうちこむ。本当のことというのは、つまり、これから先ずっと、俺の予定が空くことはない、ということだ。




「うーん。彼女に知られちゃったら怒られちゃうから、休みの日とかは難しいかもです。休憩の時間とかなら聞きますよ!相談とかなら、あんまり役に立ちませんけどね。笑」




送信ボタンを、押す。送った!送ってしまった。
これで後は、クロダさんがどういう反応を返してくるかだ。
予想内の反応か、(彼女がいると聞いて、別の切り返しで返事を寄越すか)予想外の反応か(彼女のことを聞いて、やけくそになって自分の気持ちを打ち明けるのか)。




クロダさんから返ってきた返事は、俺の予想内の反応で、胸をなでおろした。



『そうなんですか。実は私、○○くんが気になってて。彼女とかいるんですかね?』



職場のちがうひとの名前を出して、クロダさんは切り返してきた。
ははーん、そうか、そういう手で来たか。
俺は思って、同時に安堵していた。
クロダさんが自分の気持ちを打ち明けずに済んで、同時に、彼女の体面がまもられて。
クロダさんはまだ、まだ数日、勤務がのこっている。
のこりの仕事を気まずいまま終えるのは、彼女だって嫌なはずだ。




「○○くん?んーどうだろう。多分、いないんじゃないかな…」

『そうですか…。連絡先とか知りたいんですけど、私こういうの本当だめで』

「みんなに聞くついでみたいな感じで聞いてみれば?そしたら結構聞きやすいとおもうけど!」




それらしいアドバイスのようなことを言って、何も知らぬ存ぜぬを貫き通す。
そうだ。このまま、知らぬ存ぜぬで貫き通せばいい。そしたら、誰も傷つかないし、誰も気まずい思いをしなくていい。
この調子この調子、と、俺はほとんど " しめしめ " と思いながら、LINEでの会話をつづける。




「そんな感じでいけば、きっと大丈夫ですよ!がんばって!」

『はぁい!ありがとうございます!また職場で』




また職場で。語尾には、いつもの顔文字。
クロダさんは、いつも可愛らしい顔文字をつかう。


彼氏が、「言ったのぉ~?」と、携帯をのぞき込む。
「カマかけてみれば?」と最初に言ったのは、彼のほうだった。





つぎの日のクロダさんは、いつも通りだった。
いつも通りで、きちんと仕事をし、わからないことは聞いて、真面目に取り組んでいた。
ただ、今までみたいに、話しかけてはこなくなった。
心なしか、表情もすこし暗いような気がする。



俺は俺で仕事をこなしながら、同情なんてするもんか、と、おもった。
同情なんてしたって、何の役にも立たないし、第一、(振ったわけじゃないけれど)振った張本人が相手にやさしい態度を取るというのは、すごく自分勝手で傲慢な気がしていた。


いい男ぶっているような気もするし、俺なら御免だ。
振っておいてやさしくなんてされたら、それこそ感情が持たない。決壊だ。




その日が、俺がクロダさんといっしょのシフト最終日で、多分これが終わったら、会うこともないのだろう。
そしたら、クロダさんも誰か、新しい良い人をみつけて、新しい恋でも、するのだろう。
それがいい。いい人なんだし、こんなノンケぶったオカマにくだらないカマをかけられるようなことは、きっとないはずだ。



罪悪感から、すこし自分を卑下してみる。
クロダさんの気持ちなんて結局聞いていないんだから、そんなことする義理もない気がするけれど。
そう思いながら、その日、結局ひとことも話さないまま、仕事がおわった。



みんなと一緒に帰るとき、クロダさんは一番離れたところを歩いた。
一度も、こっちを見なかった。





これでよかったんだ、と、自分に言い聞かせていた。
これでよかった。クロダさんの気持ちはわからずじまいだが、わかってしまったら、きっとお互い、すごく恥ずかしいと思う。
クロダさんの告白は玉砕におわることは決まっていたし、俺も、マヌケな御託をならべてあーでもないこーでもないと理由をならべて、断らなければいけないから。



だからクロダさんから一日ぶりのLINEがきたときは正直おどろいたし、その内容が、自分の気持ちの吐露だったから余計、ことばにしようのない気持ちばかりが溢れた。




『ごめんなさい。○○くんがどうとかって言いましたけど、本当はしょごさんのことが気になっていたんです。
でも彼女がいるって聞いて、咄嗟に…。すみませんでした!
また、今度はお客さんとして遊びにいきますね!一ヶ月ありがとうございました!免許、がんばって取ってくださいね!笑』




免許?免許って、なんだっけ。
すこし考えて、すぐ思い当たる。
あぁ、そういえば、車の免許を持ってないって話、したなぁ。免許ないんですか? ってびっくりした顔されて、なんでそんな顔すんの? ってこっちがびっくりしたなぁ。
免許ほしいって話したら、がんばってお金貯めましょう! って、なんか応援されたなぁ。
忘れてたなぁ。おぼえてたんだ。すげーなぁ。



そこまで思って、俺は、気づく。


自分の浅はかさを、心から恥じた。


言わなければ本当にならないし傷つかずに済む、というのは、俺のつごうのいい、勝手な隠れ蓑だったのだ。


当人にしてみれば、正直に言おうが言うまいが、おなじなのだ。
言わなくても気持ちがなかったことになるわけじゃないし、言わないから傷ついていない、というのは、こちらのひどい誤解なのだ。




ちゃんと失恋もさせてやらなかった。
ただ、気まずくなりたくないから、面倒くさいから、彼女がいるなんてくだらない回り道をして、クロダさんがどうしたいと思っているのか、考えたときなんて一度もなかった。




気まずくなるのも面倒くさいのも、ぜんぶこっちの都合だ。
向こうからしてみれば、まったく見当違いの判断かもしれないし、まったく馬鹿にした選択肢だったのかもしれない。



いずれにしろ、と、俺はおもう。
いずれにしろ、クロダさんは伝えたかったのだ。だから、わざわざこうして、本当のことを告白したんだろう。




言わなければ、俺が一生わからず忘れてしまうに決まっていることを、クロダさんは、否定した。



自分の気持ちに気づいてほしくて、知ってほしくて、すこしは心のどこかに引っかかっていてほしくて、告白したのだろう。
そして、自分が前に進むためにも、言って、吹っ切ってしまいたかったのだろう。



クロダさんじゃないから、クロダさんの気持ちなんて、わからないけれど。





わからないけれど、と、でも俺はおもう。


わからないけれど、でもちゃんと、伝わったよ。




「ありがとう。気持ちに応えられなくて、ごめんね。でもまた遊びに来て!それで、残りの出勤もがんばって!!それじゃあ、おやすみなさい」



そう返信して、俺は胸のなかで小さくため息をついた。
冬が、もうすぐで終わろうとしている。
春はいつのまにか、気付いたらやってきているだろう。
そのときは、彼女の心の中にも、きっと。






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