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彼について俺の知っている二、三の事柄 :: 2015/02/04(Wed)

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思いがけず、昔の知り合いと繋がっているひとや、自分が一方的に知っているひとの知り合いと出会ってしまう、ということは、" まま " ある。
自分は直接は知らないひとなのに、" そのひと " の知り合いは、" そのひと " を知っている。
ひどく奇妙な感覚だ。





職場の同僚が、たまたまそのひとの先輩だったということが、ついこのあいだ分かってびっくりした。彼も、すごく驚いていて、「すげー。鳥肌たった」と、笑った。
だから久しぶりに、俺は、犬童勇士くんのことを思った。
犬童勇士くんのことを俺はなにも知らないけれど、確かに一方的には、知っていた。





10:05。
BGMはMachine Gun Kellyで『Invincible feat. Ester Dean』






犬童勇士くんは別に友だちでもなければ知り合いでもない。だから勿論、むこうが俺を知っているはずなどないのだ。
なのに何故俺が彼を知っているかというと、理由はふたつある。
ひとつは、彼と、彼の友だちが運営していたホームページをたまたま見つけたから。
犬童勇士くんはバスケ部で、おなじバスケ部仲間ふたりと一緒に、そのホームページをやっていた。中学から高校にかけて、個人でホームページを作って、そこで日記を書いたりプリクラや写メを公開して仲間内にみてもらうという、ミクシーなんかを飛び出したネット活動が流行っていた。



ふたつめは、犬童勇士くんがある日突然、死んだからだ。
自殺だった。噂では、マンションから飛び降りただの、電車に飛び込んで轢かれただの、とても真実など判別できないような憶測があまた流れて、尾ひれがついて、いろんな学校に流布していた。



俺たちが、高校二年生のころ。17歳。





犬童勇士くんはバスケ部で、勿論バスケは好きで、うまかったらしいし、顔も可愛らしい感じのいわゆる「モテ男」で、中学時代は同じ学校内で、いくつかのファンクラブがあったらしかった。
ホームページを読んだ限りだと、至ってふつうの子という印象をうけた。
特に高飛車でもなく、特に神経質でもなく、ごくふつうに、クラスの人気者で中心人物のひとりだった。



彼は頭が良くて、俺たちの地元の、県内でも一、二を争う進学校に進んで、勿論バスケも続けて、俗にいう「天は二物を与えず」なんてうそっぱちもいいところの、二物も三物も与えられた、誰の目からみても最高の人物だった。
ホームページの日記には、勉強のことはあまり書かれていなくて、触れられてもせいぜい中間テストとか学期末テストのことくらいで、あとはほとんどバスケの話題だった。



とにかくバスケが好きで好きでたまらないというのが、日記越しから伝わってきたし、それが犬童勇士くんを犬童勇士くんたらしめている、重要なコンテンツのひとつなのだと思った。
まさに完ぺきなヒーローで、絵に描いたように楽しい人生を送っているようにみえた。



俺とはまるで違う、きらきら輝く人生を目の当たりにして、しょうじき、嫉妬した。
こんなにも違う人生を生きられるのかとほとんど絶望に近い気持ちでおもったし、自分じゃきっとこんなに光り輝けない、と、胸の内で、諦念を込めて自嘲したりした。
だから犬童勇士くんの日記を読むと、その頃にはもうほとんど羨望の気持ちしかなかった。
自分自身の劣等感ばかりが目について、とてもまっさらな気持ちで日記を読むことなんてできなくなっていた。
俺はその頃、自分はいよいよゲイなんじゃないかという疑念を、認めようか否か、迷っていた。これからどう生きていくのか、どういうスタンスで恋愛をすればいいのか。
どういう嘘をついていけばいいのか。



犬童勇士くんとは無縁の人生で、天と地ほども差のある人生を、俺は生きている、と、ほとんど被害妄想的な思考でおもった。





だから、犬童勇士くんがトラックと接触事故を起こして、一時は意識不明の重体で生死をさまよったという日記を読んだとき、心の底から意外だとおもった。
意外というのは、つまり、こんな風に人生に躓くなんて、という半ば最低な理由からなのだけど。


彼と一緒にホームページを運営している別の友だちが、そう書いているのを読み、ここまで何もかもうまくいっていた人生が、こんなにもあっさりと綻びをみせるなんて信じられない気持ちだった。
犬童勇士くんの人生は、俺には完ぺきにみえたから。
交通事故という、しかも携帯をいじっていただかで自分から信号無視して飛び出してしまったという不運な事故で、自分のスターダムな人生を危険にさらすなんて、言葉を悪くしていえば、愚かだとおもった。
気をつけてさえいれば、こんな事にならずに済んだはずなのに。



後日、お見舞いに行ったという彼の友だちが、ベッドに横たわる犬童勇士くんの写メをホームページにあげていた。
何だかよくわからない管をいっぱい付けられて、人工呼吸器で息をする、痣だらけの犬童勇士くんが、俺にはとてもあの犬童勇士くんとは思えなくて、その写真をホームページにアップした友だちの神経も信じられなかった。
もうその頃には、峠は越えたらしかったから " 洒落にならない " 状況は脱していたにしても、そんなみじめな姿の友人を、大勢のひとがみているホームページで公開するという感覚が、俺には理解できなかったのだ。



その写真をみて、他のひとたちはどう思うだろう。
「痛そう」とか「かわいそう」と同情するか、「助かってよかった」とか「早く元気になって」と安堵するか、「近況を教えてくれてありがとう」と感謝するか。
そのどの感情も、俺にはわからない。
もし俺が犬童勇士くんで、自分がいろんな管に繋がれている姿をさらされたら、たぶん烈火のごとく怒るはずだ。
そんなの、自分のプライドが許さない。
そんなみじめな自分がよく知りもしないひとたちに見られて記憶されるなんて、冗談じゃない。



「勇士の容体は安定しています。早く元気になってバスケしようぜ」
そう添えられたキャプションを、俺は白々しいとすら思った。
すべて心の中で願えばいいのに。こんな場所でさらすまでもなく、自分の胸の内だけに仕舞っておけばいいのに。





犬童勇士くんの意識がもどって、容体も回復していってるようだった。
ただ、再開された彼の日記には、以前のような自信は、もう見て取れなかった。
自分を卑下する言葉がよく並ぶようになったし、なんとなく、たいくつそうな雰囲気が文面からわかった。
犬童勇士くんは事故の影響で、頭をすこし強く打ちすぎてしまったらしかった。
そのせいで、勉強しても勉強しても、数時間経てば忘れてしまうこと、進学するのは極めて難しく、留年するつもりで必死に勉強していること、事故の後遺症で、バスケがもうできないということ。



日記を順に読んでいくと、だいたいそんな内容のことが書かれてあって、彼の身の上にふりかかった災難をおもった。
よく知りもしない俺からみても、文面から察する彼は必死だった。
なんとか元の自分に戻りたい。どうにかして遅れた勉強を取り返したい。どうにかしてバスケのことを忘れたい。



どうしても取り返せないものを、どうしても取り返すために、犬童勇士くんは闘っているようにみえた。
それは自分自身との闘いで、誰かが助けてあげることもできない。誰かの言葉が、以前みたいに素直に心にはいってくるかもわからない。
ただそれでも、彼の日記のコメント欄はいっぱいだった。常に十以上のコメントがついて、そのどれもが、犬童勇士くんへの叱咤激励と慰めの言葉だった。
「勇士くん!また勇士くんのバスケしてる姿見たいです」とか、「勇士くんが元気ないと私も悲しいです」とか、「勇士は絶対そんなのに負けない。また必ず出来るようになるよ!」とか。



書くほうと、読むほう、どちらがつらいだろう。
想像しながら、俺は目に余る偽善をひとつずつ読み込んでいった。
犬童勇士くんの気持ちを想像してみたけれど、そんなの、想像なんてできるはずがなかった。





枯れてさむそうな木々。雲に隠されて暗く濁った空。
街角の本屋。築年数うん十年の中学校。
電車の踏切。警報機の、けたたましいサイレン。





犬童勇士くんが死んだとわかったのは、彼が死んで数日経ってからだった。
またしても、ホームページを共同運営していた友だちが、自分の胸の内とともに書き記していたのだ。
詳しいことはさすがに書かれていなかったけれど、だいたいのことはわかった。
自殺だったこと。ふつうに家を出たこと。家の裏が踏切だったこと。急ブレーキの殺人的な不快音と、知らせをうけたときの気持ち。



「どうして」と、その友だちは書いていた。たぶん文字に起こしたら、書き殴ったようなふうになる、そんなテンションで。
ドウシテ死ンダンダ?ドウシテナニモ言ッテクレナカッタンダ?ドウシテ?ドウシテ?



俺はもう、犬童勇士くんの気持ちを想像することなんてできなかった。
ただ、残されたお母さんのことや友だち、彼のファンクラブの会員の心情を想像して、ひどくナーバスになった。
みんな、犬童勇士くんが大好きだったはずだ。
誰もが回復を喜び、また元気になるものと信じていたはずなのに。
またクラスの人気者として、みんなを楽しませてくれるはずだったのに。
留年してもバスケができなくなっても、また笑ってくれると信じていたはずなのに。



犬童勇士くんがこときれた瞬間を想像してみる。
電車に轢かれたのが事実なら、たぶん時速40キロ前後、特急なら時速130キロ、生身の人間がぶつかれば即死のはずだ。
痛いという感覚はなかったと思う。あっという間だったはずだ。
どんな気持ちで死んでいったのだろう。恐怖心はあったのだろうか、それとも何も感じていなかったのか。誰かを想っていたのか、何も思わず、ただ死へと突き進んだのか。



いくら想像してみても不毛で、気がおかしくなりそうだ。
誰にもわかるはずないのだ。
生きている人間に、死んでいくことを自ら選んだ人間の気持ちなんて、わかるはずがない。わかりたくもない。



犬童勇士くんのホームページには、数え切れないほどの哀悼のメッセージが寄せられていた。
残された友だちが、特設のページを作って、そこをメッセージ置き場と称して、みんなそれぞれ哀悼の意を示していた。
俺は、それすらも奇妙な感じがしていた。
犬童勇士くんはもういないのに、犬童勇士くんのホームページで、彼の友だちたちが彼の死を、不特定多数のひとたちに向けて発信して、喪に服しているその様が、ものすごく珍妙なものにおもえた。
メッセージは、後に印刷して犬童勇士くんのお母さんに渡してあげるらしい。
それらの文章は、彼を直接は知らない人間からもたくさん書き込まれていた。
それぞれが、それぞれの表現で哀悼の意を記している。
「勝手に死にやがって」「どうしてこんな馬鹿なことを」「好きでした」「いつか会えるよね」「学校で会えるのが楽しみでした」「バスケしてる勇士くんが大好きでした」「天国でもバスケしてるのかな」「みんなでお葬式いったよ」「みんな泣いてたよ」「みんな悲しんでたよ」「どうして死んじゃったの?」「これしか道はなかったの?」



どれも、頭が痛くなるようなメッセージだった。
読めば読むほど自分が何者なのかわからなくなる。
犬童勇士くんは俺のことは知らない。俺がたまたまこのホームページを見つけて、一方的に知っているだけの、ただの他人だ。
それなのに、どうしてこんなにも犬童勇士に感情移入してしまうのか。
なんで彼が死んでしまったのか。死ぬって、どんな感じなのか。



俺は、ホームページを見るのをやめた。
とても気が持ちそうになかった。これ以上感情移入したところで、俺は赤の他人だ。彼のことなんて、ほんとうは何も知らないのだ。何も。まったく。



後から別の進学校に通っているタツヤに聞いたら、事故のあと、犬童勇士くんは塞ぎ込むことが多くなっていたらしい。
いろんな噂が流れていて、死因はよくわからない。
電車に飛び込んだが、一番よく言われているけれど、飛び降り自殺だったとか、車に飛び込んだとか、いろいろ根も葉もない噂があるらしかった。



「犬童くんのプライドが許さなかったのかもしれないな」



タツヤが真顔で言って、たぶんそうだったのだろうと、俺も思った。
それまで順調に進んできた人生が、自分の不注意とはいえ、ある日急に崩れ去ったのだ。
絶望のひとつやふたつ、するのが普通だと思う。



「カナが、自殺する前に勇士くんから告られたらしくて、返事する前だったらしいんだけど、相当ショックだったろうな」
タツヤが言って、そういえばカナは犬童勇士くんと同じ学校に進学したんだったと思い出した。
カナとこの後メールしたとき、俺が彼のことを知っていることは言わずに、落ち込んでいるらしいって聞いたけど、大丈夫? というようなことを聞いてみた。
カナは、「もう二度と立ち直ることはないから」とだけ言った。
何もできないんだ、と、そのとき思い知ったし、自分の浅はかな行動を心から恥じた。
カナからは、それ以来、返事がかえってきていない。





「カナも、好きだったのかなぁ」
俺が言い、タツヤはぶっちょうづらで、知らねえ、とだけ言った。
タツヤと話してから、俺は犬童勇士くんのことを考えるのは止めた。
これ以上考えても、俺は犬童勇士くんじゃない。彼の友だちでもない。わからない。わかるはずないのだ。死のうと思って、それを実行に移したひとの気持ちなんて。





つい先日、職場の同僚とはなしていて、たまたま犬童勇士くんの話をしたら、知り合いだったので、本当におどろいた。
やはり彼は、電車に飛び込んで、こときれたらしかった。
「地元の本屋に行くっていって家出て、あいつの家の裏に線路があるんだけど、そこからすぐに、キキキィーッ!!って!急ブレーキが聞こえたんだって」
同僚はそう言って、びっくりしたぁ、と、しみじみつぶやいた。
まるで遠い昔のことのように、なつかしげに。




俺も、あの頃の感情はおぼえているんだけれど、正確に気持ちを思い起こすことはできなかった。
まるで小説を読んだあとのような、" 余韻 " は残っているけれど、それを説明しなさいと言われてもうまく出来ないように、あの頃の気持ち自体はうまく思い出せない。



そういうふうに生きていくしかないのだ。
思い出にして、克服して、どうにか自分を守るしかない。
もう、あのホームページのURLもわからないし、カナがあの後どうやって悲しみを乗り越えたのかもわからない。
ただ、あの時なにかに取り憑かれたみたいに、あのホームページを貪り読み、犬童勇士くんの気持ちを想像し、憧れていたことは、ぜんぶ思い出になった。
すべては時の彼方だ。取り返すことはできない。犬童勇士くんを取り返すことができないように、俺もあの頃のたしかな気持ちなんて、取り返しようがないのだ。





どうしても取り返せないものを、どうしても取り返すために。





俺はあいかわらずこうして昔の気持ちを再現しようと、このブログを書いている。
ときおり、俺は自分が犬童勇士くんだったら、どうしただろうと想像する。
犬童勇士くんとして生きた人生を想像して、そしてやむを得ず死を選択した彼の胸のうちを思う。
犬童勇士くんは死の瞬間、なにを見たのだろう。
彼はきっと、他の人とそう変わらなかったんじゃないか。怖くて怖くて、でもこのまま生きていくことも怖くて、どうすることもできなかったんじゃないか。
彼の声も、ほんとうの顔も、元気だったころの姿も、俺にはわからない。
ただ、あの頃みていた景色は、俺とそう変わらなかったんじゃないかと思ってみて、すこし安心する。
犬童勇士くんは普通の男子高校生だった。バスケが好きで、勉強が得意で、クラスの人気者の、男子高校生だった。



この街はあの頃と、なにか変わっただろうか。
あの頃の犬童勇士くんが見たら、どう思うだろう。あの頃の俺が見たら、どう思うだろう。
いずれにしても、あの頃を取り返すことは、もう、できない。




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