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小さな恋と晴れた空 :: 2015/02/06(Fri)

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よく晴れた日が俺は好きで、曇りの日はもっと好きで、雨の日はだいきらいだ。
この世でいちばん過ごしやすいのは、夏は曇りの日、冬は晴れの日、とそれぞれベストな塩梅がきまっているけれど、雨の日はどんな季節にも平均的なまでに不快だ。
夏はじめじめして髪の毛がいうことを聞かないし、冬はつめたくて凍えそうなくらい俺たちの体温を奪っていく。



だから俺は、雨が好きなどというひとのことを全く理解できない。
全くだ。ただのいちども、雨を素敵なものだとおもった瞬間なんてない。





彼は晴れのようなひとだった。
電話越しに笑った声があまったるくて、砂糖菓子のかけらをひとつまみ、彼という細胞にまぜて溶かしたような、そんな雰囲気のひとだった。
すてきな男の子は、お砂糖とスパイス、すてきなもの全部では出来ていないけれど、スパイス全部のなかに僅かに砂糖とすてきなものが見え隠れするような存在ではあるとおもう。
いい男の子は、ちょっとだけ " からい " 。
でも、からさの後にはほんのり甘さも残る。それが、癖になる。
俺はそれの虜だった。





俺が彼のことを好きだと気がつくのにかなり時間がかかった。
いや、気づかないふりをし続けていたのかもしれない。
彼とは会ったこともないし、こういうネットでの付き合いしかなかった。



よく晴れた日に、俺たちはほんの気まぐれから知り合った。
それはひどく心地よい気まぐれだったし、その偶然に俺は心から感謝している。
すこし肌寒くて、陽の暖かさが俺を唯一温めてくれる手助けをしてくれた。
キャッチボールでもすればうっすら汗をかいて、いい具合に息があがってしまいそうな、すてきな天気だった。





電話口の彼はほんとうに子供のように幼い声で、ときどきびっくりするくらい大人びた声で俺を呼んだ。
その声をもう一度聞きたくて、俺はがんばって頭を働かせて、話題をさがす。
彼がいつも見ている景色の話を聞かせてもらい、通っている学校の同級生の話を聞かせてもらい、となりの高校に通う女友達とのいざこざを話し、彼が好きだという友達の話を聞きながら、でも、俺は深い痛手を負わなかった。
予防線なら、いたるところに張ってあった。
彼にとって男で好きなのはただひとり、その友達だけなのだと。



彼が好きなひとの話をするとき、
彼の声はしあわせの限りだといわんばかりにとろんとして、
けっして届かない恋心をもてあまして笑った。
俺も話を聞きながら、彼のすきな男はどんなひとなのか知りたくて、
必死に想像をめぐらせて、おもいつく限りの人物像を得た。
彼がそのとき抱えていた想いは、けれど、わからなかった。



叶わない。俺も、彼も、知っていた。
きっと叶わない。だってそのひとには、となりの学校に彼女がいて、その女の子と彼は、友達同士でもあるんだから。
だから、せめて、彼の話を聞きながら、彼の想いを共有してみたかった。





俺はその頃、自分でも不毛とわかる恋をしていた。
彼へ向ける感情とはまるで違う。
やさしさや慈愛にみちた気持ちじゃなくて、自分勝手で欲望まるだしの、むせかえるような恋だった。
愛だと思っていたもの。愛だと信じていたもの。



俺の恋する男は、こういった。
「あいしてるよ」



それは、ずっと、ずっと聞きたかった言葉だった。
待ち望んで得た言葉だった。長い長い時間をさまよっているような感覚の中で、ようやく得られた愛の言葉だった。
それなのに、俺はひどくさみしい気持ちになってしまう。
ほとんど暴力的といってもいい。暴力的なまでにこの男がすきですきで、たまらない。
彼の首筋に噛みついて、髪をつかんで、おもいきり抱きしめたかった。
すきという感情を全部キスに込めて、舌で流しこみたかった。
愛なんて、ほんとうはどんなものかも知らなかったくせに。





北海道に例の友達や、その彼女、ほかの友達たち数人と旅行にいったという彼は、ある晴れた日に、ずっとすきだったその友達に告白したといった。



ホテルのそばにある、大草原といっても過言ではないような広い広いそこで、彼は一世一代の大勝負にでたのだ。



「お前のこと、すきやねん」



そう言った彼の姿を思い浮かべようとする。必死に想像してみる。
……でも、わかるはずがない。
声でしか、俺は彼を知らないのに、まるでずっと昔から知っているみたいに、彼の姿を勝手にイメージしていた。




「……ごめん。ナオヤ。無理だよ」



ナオヤ、つまり彼にそう言って、その友達はナオヤの前から立ち去った。
ナオヤは言葉にならない。
自分がしたことの重大さに気づき、もう取り戻せないふたりの関係をおもって泣いた。
ぜんぶが崩れてしまった。積み木を崩すみたいに、あっけなく、ぜんぶが瓦礫の山になってしまった。



「ほんま、バカやな。俺」



ナオヤが電話口で笑いながらつぶやいた。
泣いているような声で笑って、俺は胸がいっぱいになる。
今すぐ彼のもとへ行って、話をしたいと思ったけれど、そんなこと出来っこないと俺もナオヤも知っている。
900km以上離れた場所にいる俺たちは、現実のものとして存在しているはずなのに、まるで手が届かない。





「しょーちゃん、もうまじ辛いよ」



ナオヤが言って、俺はナオヤの胸の内を思っていっしょに辛くなった。
とても分かち合えない感情を分かち合いたくて、俺は、うん、うん、と返事をしながら、かなしみで一杯になる。



「ナオヤは頑張ったよ。彼もきっと、今は驚いてるけど、また必ず友達に戻れるよ。絶対に」



根拠のない慰めを言いながら、そうあってほしいと願った。
そうなってほしいと心の底から願った。
そうでなくても、辛い。





晴れた日の北海道の大草原で、ナオヤは自分の人生の重大な選択をした。
雨の日じゃなくて、ほんとうに良かったと思う。
すこしでも、ナオヤの記憶に爽やかな思い出として残ってほしいと思うから。
ナオヤには会ったことはないけれど、ナオヤがどんなに純粋な人間かは知っている。
自分に自信がなくて、相手にそっけないふりをして、
でも猫のようにするりと相手の懐に潜りこむ、
そんなナオヤのことを、俺はよく知っている。



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