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眠れる者たち :: 2015/02/28(Sat)

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生きていて、なるべくなら知りたくないことや見たくないことを、運悪くたまたま見聞きしてしまうことが時々あって、そういうときの後悔や気おくれを経て、ひとが成長していくのなら、それでもいいと俺はおもう。
ひとは、所詮ひとなんだから。
俺も、あなたも、ただのひとでしかない。
俺たちは神様じゃないし、聖人君子でもない。





14:31。
BGMは、Justin Timberlakeで『FutureSex/LoveSounds』





俺はずっと二人組だと思っていた。
母は放任主義者で、夜は仕事にいって帰りはいつも深夜だったけれど、俺のただひとりの片割れはあの女で、母の機嫌をそこねないよう、注意深くやっていたつもりだ。



仕事に行く前、風呂上がりの化粧気のない母は鏡台にすわって、いろいろなクリームを顔じゅうに塗りこんでいく。
ファンデーションを肌に綺麗にのばしながら、その女の顔はまるで他人のそれのような気がした。
マスカラを上目遣いに塗って、真っ赤な口紅をさす。
仕上げにBVLGARIやらCK oneやらをふりかけて、Louis Vuittonのトートバッグを持って颯爽と出ていく目の前の女は、俺の母親じゃないみたいに思えた。



「いい子にしてるのよ」
母はそう言って、仕事に出ていく。
俺を置いて、たったふたりきりの家には、子どもには途方もない長い時間と静寂がふりつもる。
4才のころから、7才のころまでそんな生活をしていた。
父親がいないことを疑問におもって母を困らせたりもしたけれど、俺にとって母親以外のおとなは未知だった。
未知であり、敵であり、他人だった。
もちろん、ほんとうの父親も含めて。





父と母が別れたのは、俺が生まれるまえだ。
子どもができたと伝えると、父親に " なるはずだった " その男は、「最初はやさしかったけれど、ある時から急に態度をひるがえして、俺の子じゃないって言い始めた」らしい。
彼と、彼の両親、そして母の三人での話し合いの場が設けられ、そこで交渉はかんぜんに決裂した。
慰謝料も養育費もなしでやっていくと決めた母が、夜の仕事で生計をたてるのはありきたりすぎて俗っぽいけれど、それでもそれ以外方法がなかったのだ。
大した学歴もないうえに身重の女が仕事を得るには、選り好みしている余裕はなかった。



若い頃、血の気の多かった母はすぐに声を荒げては父と喧嘩していたらしい。
父親になるはずだったその男は、気がひどく弱くて、つねに逃げ腰だったらしいから、そんな母と一生を添い遂げるのがこわくなったのかもしれない。



父は、母親と共通の友人だったひとに、
「あいつがこわい」
と、こっそり言っていたらしい。
それを聞いたとき、俺は心から母に同情したし、父にもおなじくらい同情した。
じっさい若い頃の母はひどく気性が荒くて、俺を叱るときはよく手をあげたし、時には足もでたので、そういうところに嫌気がさしたのかもしれない。



ともかく、そんなふうにしてシングルマザーになった母と俺は、つねに一緒で、まさに二人組だったとおもう。
六才で二段ベッドを買ってもらうまでは一緒に寝ていたし、仕事で上り詰めるところまで上り詰めた母親に、買えないものなんてなかったのだ。
俺はたぶん、他の子どもたちよりはたくさんのものを買ってもらった気がする。
おもちゃだったり、漫画だったり、プラモデルだったり、二段ベッドだったり。
二段ベッドからみえる景色は、ワンルームの部屋のほぼ全貌で、奥のキッチンに冷蔵庫、その横にある玄関につながる廊下までぜんぶみえる。
そこからの視点は、まるで神様のそれのようで、俺はそこで眠るのがすきだった。
寝ながらベッドの柵越しにみることができる下界を、ほとんど超越したような気になって。



深夜まで、家の中でひとりで遊んでいたのを憶えている。
ゴジラやガメラや、ウルトラマンなんかの人形でおもいっきり散らかして、ひとり頭の中で架空の街を破壊していく遊び。
ビデオテープのケースなんかを街に見立てて、それをゴジラが破壊していく。
それを夜中の一時過ぎまでやって、母が帰ってくると、怒られたくない俺はよく片付けるフリをしていた。



「いま片付けてるとこ」
そう言って、さっきまで破壊していた街を元の場所に " 片付ける " 。
そうして自分が、母がきちんと帰ってくることに少なからず安心しているのを感じて、そこでようやく眠気が訪れる毎日だった。





俺が見たくなかったのは、母が怒って手をあげる姿でもないし、母が化粧をして仕事にいってしまうことでもない。
見たくないもの、見なければよかったものが、この世にあるなんて、知らなかった。



俺は無知で、ひとりでお留守番をしていることしかできない。
一度、棚の奥にしまってあった海外映画のビデオを、勝手に観てしまったことがあった。
コメディタッチの映画で、ときどき突拍子もないセックスシーンが挿入される、ありきたりなアメリカ映画。
俺は " それ " に釘付けになった。
これは何で、どういう意味なんだろう。
母親が仕事のとき、しばらくそのビデオを観ていた。
子どもでも、なんとなくそれが「見てはいけないもの」だとわかっていたから、すっかりその罪悪感と背徳感の虜になった俺は、母がそういうビデオをもっていたのが意外だったのだ。



おとなは皆、こんなことをしているのだろうか。
そんなことを考えながら、わけのわからない " それ " を盗み観るのが日課になった。
ある日、そのビデオを観ながらつい寝てしまって、ビデオの声とはあきらかに違う、はっきりした(そしてとても怒った)日本語が聞こえて目を覚ますと、母が仕事から帰ってきたところだった。
運悪く、部屋は街の破壊のために散らかされており、おまけにそのビデオときたもんだから、母はカンカンだった。



「こんなに散らかして!」
と母は言い、化粧のはげかけた顔で、
「これは子どもが観るもんじゃない!!」
とさらに語気を強めて言った。
ビデオの隠し場所は、それから変わったらしく、俺は二度とそれを見つけることができなかった。
タイトルやストーリーすら思い出せないそれを、時々画面だけ思いだすときがあって、ばかみたいな懐かしさを感じてしまう。





その日、俺は珍しく二段ベッドの上の段で寝ていて、母が帰ってきたことにも気づかなかった。
いつも通り深夜なのだろうその日は、一度寝たら朝まで起きない俺が、どうしてなのかわからないけれど、急に起きてしまったのだ。



うすぼんやりした意識でも、母の気配があるのはわかった。
部屋の中に、母のつかっている香水のにおいがいつもより色濃く漂っているからだ。
でも姿はみえない。
お風呂に入っている様子もないし、物音もしなかった。
二段ベッドに横になりながら見下ろせる景色は、せいぜいテレビの画面がかろうじてみえるくらいで高が知れている。
キッチンテーブルのほうに目をやると、母がいつも使っていたLouis Vuittonのバッグが置かれているのがみえて、帰ってきていることは間違いなかった。
その横に、見覚えのないコートもかかっている。
あきらかに女物とちがうそれは、まるで夜そのものみたいにのっぺりと黒く、そこに所在なげに佇んでいるようにみえた。
ほとんど恥じ入っているように。



床から何かこすれるような音がしたのはその時で、だから俺は、母が床で寝ているのだろうか、と思ったのだ。
疲れてそのまま寝てしまうことは、それまでもたまにならあったし、今日がたまたまその日だったとしてもおかしくはない。
俺は眠気で目をしばたたかせながら、半身だけ起こして下を見やった。



あのとき飛び込んできた光景が、夢なのか現実なのか、いまでもときどき疑ってしまう。
母は寝てはいなかった。
正確にいうと、 " 寝てはいなかったけれど、寝そべっていた " 。
化粧のはげかけた顔で、見たことのない男と寝そべって、キスをしていた。
母とその見たことのない男は、それぞれ向き合うようにして寝そべり、お互いの頬に手をやって、しずかにキスしている。
俺はおもわず、起こしかけた半身をそのままもう一度ふとんに横たわらせ、今そこで行われていた行為を必死に反芻した。
それは、ほとんど厳かなものに見えた。
荘厳といってもいい。
音もたてないで、母とその男は夢中でお互いの唇を重ねて、俺が起きたことに気づいていないらしい。
ふたりきりの世界で、まるで俺なんて居ないみたいに、彼らは見事なまでに二人組だった。



俺が一度もみたことのない母の姿で、あの安っぽいアメリカ映画みたいに、うっとりした、恍惚とした表情で、お互いのからだに腕をまわしていた。
今度は俺が恥じ入る番だった。
胸がどきどきして、いま見たものは何だったのか、これは夢で、じっさいにはさっきの光景は夢のなかでの出来事なんじゃないかといぶかしんだ。



それでも、もう、二度とそちらを見ることはできなかった。
はじめて見る母親のその表情は、厳かではあっても俺にはほとんど恐怖だった。
息をころして、からだを動かさないように、かたく目をとじる。
眠らなきゃ、と、おもった。
はやく眠って、今をやり過ごさなければ、と。



下の音は聞こえない。
俺はしずかに毛布を頭までかぶって、耐えるように眠った。





「母親である前に私は女なのだ」、という言葉が理解できない。



母親であるのと同時に、女でもあるのだ。



じぶんが生まれる前からその女にはその女の人生があって、たぶんそれは、全ての子どもにとって奇妙なことだとおもう。
じぶんの知らない顔と、一生知らなくていい過去。
知りたくない行為と、知りたくない声。
じぶんより以前の、その女の礎。





次の日、母はいつも通りだった。
目を覚ましたら、あの男の姿はどこにもなかったし、母もいつもみたいにすっぴんでテレビを観ていた。
すこし疲れたような、けれどそれでいてけっして不健康そうではない顔。



「おはよう」
そう言った母の声は、俺のよく知っているそれだった。
昨日みたことは何だったんだろう、と、俺は自分の記憶をほとんど疑ってしまう。
ぜんぶ夢だったんじゃないかと思って、夢だったらいいな、と思った。



あのアメリカ映画を思って、きのうの母を思った。
知らなければよかったことが、生きていると否応なく増えていくのだと、あの頃はまだわからなかった。
でも、知っていくことで、成長できることもある。
知らなければわからなかったことや見えなかったものが、理解できるようになるのだとしたら、きっと、目を向けたほうがいい。
たとえそれが怖くても、気後れしたとしても、後悔したとしても。
" はじめて " って、そんなものだと思うよ。





母が妊娠したのは、それからしばらく経ってからのことだ。






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